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Vol.244:2014年12月20日号
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よみタイムVol.244 2014年12月20日発行

スピークイージー・ドールハウス
The bloody Beginning
酒と殺しと禁酒法。

禁酒法時代にスピークイージーを経営し、殺害されたフランク・スパノ
Frank Spano (actor Russell Farhang) Photo by Arin Sang-urai
これは、実際に起こった殺人事件である。時は禁酒法時代、所はニューヨーク。当時、違法の隠れ酒場があちこちにあった。それらを総称して「スピークイージー(Speakeasy)」という。フランク・スパノが経営していた酒場もその一つ。表向きはベイカリーだが、上階にあるスパノ一家のアパート裏が隠れ酒場だった。禁酒法が解かれた2年後の1935年3月14日午後7時、フランクが拳銃で撃たれ殺された。犯人は逮捕されたが、犯行理由が不明なまま裁判で無罪判決が下る。証言者、果ては裁判官にまでマフィアの息がかかっていたのか…。家族の訴え空しく、事件は迷宮入りしてしまった。このショーは、フランクの孫シンシアが独自の再捜査の末に、祖父の殺人事件を再現したものである。 (ささききん)
撃ち殺されたフランクの葬式の様子。でっかいオープンキャスケットがバーに運ばれてくる。
Deceased Frank Spano (actor Russell Farhang), The Speakeasy Hostess
(actor Ali Luminescent) and Dominick Spano (actor Rachel Boyadj)

禁酒法に抑制された怪しげな時代を舞台に
実際に起こった殺人事件の再現ナイトクラブ
祖父の謎の死を追い孫が書いたシナリオ

 オンラインでチケットを買うと、まずはシンシアからの招待状(Eメール)が届く。そこにはこんなことが書かれていた。
 「当時祖父母が住んでいたアパートには、今いとこが住んでいます。祖父の殺害事件を調べる間、私も同居させてもらったのですが、ある日、ゆるんだフロアボードの下に隠された、祖母の手作り果実酒が入った瓶を発見。それを飲んでいると、寝室の向こう側から音楽が聞こえてきました。そんなある夜、棚にある本を見ていたときのこと。本を1冊棚から抜くと、その本棚が回転ドアであることに気付きました。そしてその向こう側には、祖父が禁酒法時代に営んでいたスピークイージーがあったのです」
 スピークイージーとは、ご存じのように禁酒法時代(1920〜33年)の隠れ酒場のこと。これらの酒場のことを話すときはひそひそ話をしたことから、そう呼ばれるようになったという。当時と同じスタイルで、今も酒場として営業しているスピークイージーが市内に2つある。その一つ、ローワーイーストサイドにある「The Backroom Bar」で、このショーは展開される。劇場ではなく、バーだ。
 さらにシンシアは続ける。
 「幻を見ているのか、タイムスリップしているのか、または幽霊を見ているのかは分かりません。でも、毎晩寝室の向こうから音楽が聞こえると、同じことが起こるのです――私は、祖父の殺害現場を目撃するのです」
 というわけで、ここで展開されるショーは、今を生きる孫のシンシアが祖父の霊に導かれるようにして目撃した、80年前の祖父殺害現場を軸に、事件当時の家族や隠れ酒場の様子、マフィアが絡む当時の人間関係を再現したものだ。

禁酒法時代にタイムスリップ

 「謎を解こう」とか「理解しよう」と思って行くと、目を白黒させることになる。ましてや、よくある「マーダーミステリー・ディナーショー」のように、イスに座って見ると思って行くと大間違いだ。
 このショーは、役者と観客が完全に入り交じる。30年代風のファッションに身を包むノリノリ観客がいるので、誰が役者で誰が観客だか分からなくなる。実際、観客にも入り口で紙が渡され、その日の「役」が割り当てられる。
 まあだからといって、演技をする必要は全くない。筆者など「あなたは、ブロンクスの孤児院経営者。殺されたフランクの遺児を引き取ろうとするが拒否される役」という紙をもらったが、結局、最後までそんな役のことなど頭からすっ飛んでいた。
 とにかくショーの間、役者たちがトイレの中から裏口通路まで使って歩き回り、いろいろな場面がいろいろな場所で繰り広げられるので、イスに根を生やしているとすべてを見逃してしまうからご注意を。バタバタ歩き回って詮索しよう。
 適度におしゃれして行くことも勧める。結構客もみんなカクテルドレスやスーツを着ている。この日は雨だったのに、頑張ってパンプスをはいている女性が多かった。男性も蝶ネクタイがいたし、レトロなカットのスーツとか、時代もののフェドラ帽などを被っている人も。
 それに比べて筆者はジーンズに長靴。会場で一番ダサい存在だった。まずいことに、逆に目立つ。東洋人が1人もいなかったので、その点でも目立ったかも。


フランクの殺人犯人の裁判の様子。これは裁判官、無罪判決を下した後「賄賂もらったろ!」とか罵声を浴びる。
Magistrate Hulon Capshaw (actor Scott Southard) Photo by Margee Challa


フランク殺害の陰にウロウロしていたイタリアンマフィアまで殺され…。
Frances Flegenheimer (actress Maria Rusulo) and Dutch Schultz (actor Josh Weinstein )
Photo by Dese'Rae L. Stage

予習をして行こう

 ぶっつけ本番を得意とする筆者は、予習を怠った…。もんだから、しょっぱなからつまずいた。隠れ酒場の入り口で、レトロなドレスを着たお姉さんから「パスワードは?」と聞かれ、しどろもどろしていたら、ものすごい剣幕で怒鳴られ、ドアを目の前でバーンとたたき閉められてしまったのだ。焦るウ…。一瞬「え、このドアじゃないの?」と、きょろきょろ周りを見回すも、ドアはこれ一つ。恐る恐るもう一度ドアをノックした。実際、そのくらい、このお姉さんの芝居、リアルだった。
 前もってシンシアから届く「当時の殺人事件捜査書類」なるEメールに、ちゃんとパスワードが書かれているので、皆さん、見に行くならこれをしっかり読んで行きましょうね。入り口でビビらないためにも。
 それから、このメールには、図書館のマイクロフィルムからとった当時の警察の事件記録や、新聞記事も添付されている。古いので読みにくいが、これらに目を通して、登場人物の名前と人間関係だけでも、ざっと頭に入れておくといいだろう。
 フランクが誰で、ドミニクが誰で、ジョンが誰で、というのが分かっているのといないのとでは、ショー全体の理解度に違いが出る。筆者など「フランク見なかった?」とか「フランクは死んだの?」とか女性の役者に何度か聞かれて、「え? フランク? さっきドアにいた人?」とか、「あ、さっき撃たれた人? 知らない。死んだかも」とか、返答がいい加減だったこと!

「その気」になって見に行こう

 実は筆者が一番乗りの客だった。パスワードを言ってやっと入れてもらったら、そこにはいかにも昔風のファッションに身を包んだ役者が大勢、すでにワイワイと酒を飲み、カード遊びをしていた。タイムスリップした感覚。
 とりあえず怒鳴られたショックから立ち直ろうと、バーでジントニックを注文したら、コーヒーカップに入って出てくるではないか。考えたら当然だ。舞台は禁酒法時代のスピークイージーなんだから。
 ところが、いくら周りがレトロでも、自分は長靴はいてるし、「取材に来た」というメンタリティーから抜けきれていない。「ほかにグラスないの?」とアホな質問をしてしまった。バーテンダーから「当時はこれで酒を飲んだのさ」と言われ、やっと気付く始末だ。
 余談だが、コーヒーカップで飲むジントニックはなんとなく味気なく、妙に酔えない。当時のアメリカ人の悲哀を感じた。
 このショーを見に行くなら、禁酒法時代にタイムスリップし、当時の隠れ酒場に隠れて飲みに行くつもりで、「その気」になっていくと断然楽しい。謎解きをする必要はない。酒を飲み、役者やほかの客と会話し、ライブ音楽を聴き、フランク殺害現場を目撃し、葬儀に参列し、オペラを聴き、ヌード風のダンスも見て、フランクの妻の出産に立ち会って――という、一風変わったナイトクラブの演出に便乗していればいいのだ。
 英会話が苦手な日本人には多少ハードルは高いかもしれないが、そんなことは気にしなくてもいい。分からなければソファーで酒を飲んでいればいいのだ。昔のニューヨークを再現した、今風ニューヨークのナイトクラブシーンだ。
 オープンして3年になるこのショー。来年も1月24日からスタートする。毎週土曜日夕方5時開演。要チェック! スピークイージー・ドールハウスによるもう一つのショー「The Brothers Booth」もチェック。こちらは、リンカーン大統領暗殺をめぐる内容だ。

Speakeasy Dollhouse「The bloody Beginning」
■会場:102 Norfolk St.(bet. Delancy & Rivington Sts.)
 「スピークイージー」なので看板はない。
■チケット:一般$55、VIP$95
 ※21歳以上であること
 ※バーのオーナーが動物愛護派。本物の毛皮を着ている人は
 チケットを持っていても入場を許可されないので、注意を。
■問合せ:TEL: 212-268-0600 info@stageworksmedia.com
■チケット購入オンライン speakeasydollhouse.com


ヌードチックなダンス。この大きな羽根扇子(?)に隠れたるは全裸に近いセクシーボディー。
Burlesque dancer (actor Lily St. Sunday) Photo by Margee Challa