2016年11月4日号 Vol.289

デビューアルバム「Gone」
亡き父への想いと光
ジャズシンガー カティーニ


tPhoto by Fiorenzo Borghi


「Gone」それは有が無になるのではなく、無になることから、始まる第一歩のスタートを意味する。

ジャズシンガー、カティーニ(KATINI)は、ガーナ人の父と日本人の母の元に、東京で産声をあげた。
6歳の時、マイケル・ジャクソンを聴き衝撃を受ける。彼女にとって歌うことが生活の一部となりアーティストとしての長い旅が始まった。
子供の頃は毎年夏になると、三重県津市の叔父を訪ね、叔父のジャズ・コレクションを聴き漁った。
「マイルス・デイビス、ジョン・コルトレーン、シモーネを良く聴いたわ。でも、私のお気に入りは何と言ってもエラ・フィッツジェラルドね。叔父がいなかったらジャズを好きになってなかったと思う。だから彼には感謝しているの」
カティーニの音楽をさらに魅力溢れるものにしている重要なエッセンスが、若い頃から世界地図と共に旅をして得たクロスカルチャーのセンスだろう。
「特に意識して旅行しているつもりは全くないの。心の許すままに行きたいところに行く感じね。国境というコンセプトはないわ。自分が誰なのか、自分が欲していることが分かっていれば、どこに居ても家にいる感覚が保てるものなのよ」
世界に羽ばたくカティーニだが、実は5歳の時、耐え難い体験をしている。
「私は子供の頃に、愛は肉体的な体の中ではなく、精神的な心の中に永遠に生き続けることを学んだわ。幼少で父を亡くし、その瞬間から私の人生は変わったの」
父が交通事故で他界したことを告げられた日のことを、昨日のことのように未だに鮮明に覚えていると言うカティーニ。
「何日も泣き続けたわ。父にもう会えない悲しみ、私の成長を見てもらえない恐怖、置きざりになったことの憤り、そんな感情と共に溢れ出た涙でした」
それでも無垢なカティーニは、望みを捨てず、毎晩、月を見つめて祈り続けた。
「一生懸命お祈りすれば、世界の果てのどこか恐ろしく遠くにいるであろうお父さんに、私の声が届く、私の悲しみを感じてもらえる日が来ると思っていたの。でも、私は成長するに従って、その感情が何かとても美しいものであることに気が付いたの。父は逝ってしまった(Gone)けれど、私の心には愛のぬくもり、光の存在が一緒に在り続けている」

そんな思いを込め、3年以上もの年月を費やして制作したデビュー・アルバムが「Gone」だ。ニューヨークのレコード・レーベル「One Trick Dog」から今年10月にリリース。同作には、ベン・ローゼンブラム(ピアノ)やタミール・シュマーリング(ベース)、ダリアン・ダグラス(ドラム)など、一流ジャズ・ミュージシャンたちがカティーニを支え、オリジナル曲のほとんどの歌詞はカティーニ自身が書き下ろしている。
人生は儚くも美しいものに溢れている。「Gone」は、愛、孤独、父を取り戻したいと思いながら見つめた月、そんな思いが詰まった力作だ。
「これからも、自分の心の欲望を素直に受け止め、世界中のオーディエンスを繋ぎ、私の愛と物語を音楽を通して分かち合っていきたい。音楽のグローバリズムね」と力強く語るカティーニ。

11月、カティーニの歌をライブで聴けるチャンスがやってくる。14日の「ロックウッド・ミュージック・ホール」では、相棒のベン・ローゼンブラムと二人で最新作をアコースティック・サウンドで再現。16日の「スタンダード・ホテル」では、トラディショナルなジャズに焦点をあてる。ユニオンスクエアの「メトロポリス」では彼女のライブが定期的に楽しめる。
しっとりとソウルフルに響くカティーニの歌声が、枯れゆく秋の夜を温かく包み込んでくれる。(河野洋)

■11月14日(月)6:00pm
■会場:Rockwood Music Hall, Stage 1
 196 Allen St.
 Tel: 212-477-4155
■無料
rockwoodmusichall.com


■11月16日(水)7:00pm
■The Standard Hotel, Boom Boom Room
 848 Washington St.
 Tel: 212-645-4646
■無料
www.standardhotels.com


■11月5日(土)/9日(水)/12日(土)
 19日(土)/23日(水)/26日(土)7:00pm
■会場:Metropolis
 31 Union Square West
 Tel: 212-533-2500
■無料
www.metropolisnewyork.com


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