2016年9月16日号 Vol.286

単なる「音楽」ではなく
「ライフ・スタイル」
「NYジプシー・フェスティバル]


Hüsnü Senlendirici


Kaynak Pipers Band


Tipsy Oxcart


インドからスペインへ。考古ロマ民族の伝統と文化を継承しながら、世界を放浪するジプシー音楽。今もなお各国の文化を吸収し発展を続ける。それは、単なる「音楽」ではなく「ライフ・スタイル」だ。

サルダール・イルハンとメメット・デデ。1990年代から25年以上に渡り、ニューヨークの音楽シーンに様々なワールドミュージックを紹介し、音楽フェスティバルなどをプロデュースしてきたベテラン組。彼らはアメリカのオーディエンスに、ジブシー、中東音楽と言った過小評価されているジャンルにスポットを当て紹介してきた。中でも、今年12年目を迎えるニューヨーク・ジプシー・フェスティバルは、東海岸において、最も重要なワールド音楽フェスティバルと言えるだろう。
「2002年から2005年にかけて、『Maia Meyhane』という店を持っていたんだ。毎週水曜はトルコ、木曜はギリシャ、金曜はバルカン・ジプシー・バンドを演奏させていたところ、金曜のライブの人気が出てきて、2005年に海外とローカルのバンドを集め、このフェスティバルをスタートさせた」とフェス誕生までの経緯を説明するイルハン。
そう、ニューヨークでは2000年代初期、ジプシー音楽がポピュラーだった。
「ゴーゴル・ボールデロ、バルカン・ビート・ボックス、ベイルートと言ったバンドが、ブイブイ言わせていた時期さ。でも、その後、時代も変わり音楽シーンも変化した。インディーズやエレクトロニック・ジャズみたいなジャンルの音楽が台頭してきた。今ではニューヨークでのジプシー音楽の人気はなくなり、シーンは欧州へ移行。要するにエスニック音楽になってしまい、メインストリームから外れてしまったわけだ」
とはいえ、今年で早くも12回目の開催となるジプシー・フェスティバル。しかも、出演アーティストのネタは尽きることがない。
「ラインアップを見てもらえばわかるけど、良質のアーティストを見つけるのは、それほど大変じゃないんだ。ジプシー・ミュージシャンたちは生まれつき楽器の名手たちが多いからね。それと同時に音楽的に、そして文化的にバラエティに富んだものにすることも大切だ。僕たちは長年ミッドウエスト・ワールド音楽フェスティバルのような団体と仕事をしていて、お互いバンドや情報を共有し合っている。米国ツアーを予定しているバンドにも声をかけたり、特定のグループをブッキングして他のフェスに紹介して、出演グループを決めていく」
自分たちだけでなく、コミュニティを大切に、ライバルになりかねない他のフェスティバルとも協力し合うというイルハン。その彼は、今後はジプシー音楽家たちと異なるジャンルのアーティストたちがコラボレートできる環境を作っていきたいという。
「突拍子もないことができると確信しているんだ。以前、ジャズ/フュージョンのギタリスト、アル・ディ・メオラとトルコのジプシー・クラリネット奏者ヒュスニュ・シェンレンディリチを共演させたことがあるけど本当に素晴らしかったよ!」
そんなジプシー音楽のエキスパートたちが運営するジプシーフェスティバルが、来る9月18日から10月8日にかけて、ダウンタウンのDROMで開催される。DROMは二人がブッキングを担当している庭のような音楽クラブ。同フェス期間中には、世界各地で活動する7組のアーティストたちが登場する。
「今年のハイライトは、世界で最も知られたジプシー・クラリネット奏者、ヒュスニュ・シェンレンディリチ(トルコ)、そしてジプシーの伝統というよりはハンガリアン・フォーク音楽の色が濃い、非常に興味深いグループ、シェンデルゴー(ハンガリー)だね」

風の吹くまま、草原を彷徨う。呼吸するリズムに魅惑の旋律が、観客たちの熱き血を焦がす。ジプシー音楽をワイングラスに注ぎ、今宵、ジプシーたちと舞う!(河野洋)

NY Gypsy Festival
■9月18日(日)〜10月8日(土)
★スケジュール:
○9月18日(日) 7:00pm
 フィドル・リードの南スラブ伝統
 Söndörgö(ハンガリー)
○9月21日(水) 7:00pm
 「The Brooklyn Oryantal Parti」
 ライブ中東音楽とベリーダンス・ショー
○9月29日(木) 7:00pm
 ロドピ山脈からのバグパイプ
 Kaynak Pipers Band (ブルガリア)
○10月1日(土) 7:00pm
 エレクトリック・バルカン・ブラス音楽
 Zlatne Uste & Tipsy Oxcart
○10月1日(土) 10:30pm
 西海岸の元気なブラスバンド
 Inspector Gadje (サンフランシスコ)
 Ismail Lumanovski (マケドニア)
○10月8日(土) 8:00pm
 イスタンブールから
 ファンキーなクラリネットの達人
 Hüsnü Senlendirici (トルコ)

■会場:DROM
 85 Avenue A
 Tel: 212-777-1157
■料金:$12〜$40
www.nygypsyfest.com/2016/main



河野洋: 名古屋市生まれ。12歳でロックに目覚め、ギター、バンド活動を始める。89年米国横断、欧州縦断のひとり旅の後、92年NYに移住。03年ソロアルバムのリリースと同時にレコード会社、Mar Creation, Inc.を設立。現在は会社では、アーティストマネジメント、PR、音楽、映像制作などエンターテイメントに関連するサービスを提供するかたわら、「NY Japan CineFest」「j-Summit New York」などのイベントをプロデュース。その他にも、エイズ、3.11震災後の日本復興に関わるチャリティイベントや、平和、社会、環境問題などをテーマにしたプロジェクトにも積極的に取組んでいる。 ウェブサイト : www.marcreation.com / メール: contact@marcreation.com
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