2015年9月4日号 Vol.261


演歌に惚れたロックギタリスト
マーティ・フリードマン


日本のポップカルチャーや食文化が世界に浸透する一つの理由は、日本人の精神性が人々の心に宿るからだろう。目に見える形ではない。
 1980年代幕開けの前、ロックに夢中だった一人のアメリカ人の少年が演歌に未来を見た。その少年こそは、今や日本の音楽シーンには欠かせないギタリスト、マーティ・フリードマンだった。

メリーランド州に生まれたマーティは、父の仕事の関係でドイツを始め様々な土地を巡った。多感なティーンエイジャーは、ハワイでギターの練習に明け暮れていた時、ふとラジオから流れて来た日本の音楽に衝撃を覚える。「この歌い方、凄いじゃん!」それは、若い日本人ならそっぽを向いてしまう演歌だった。
 当時、演歌を聞くアメリカ人の若者、ましてやロックギタリストなど皆無だったが、この日本の歌心を何とか自分のギタースタイルに取り込めないか、と考えたマーティは演歌の研究と分析を始める。
 「当時は右ならえでロックスターを模倣するギタリストが多く、実は僕もそうなりかけていたんだけど、演歌のこぶしをロック・ギターに取り入れたら、周りのみんなと全く違うスタイルができあがったんですよ」
 演歌の洗礼を受けたギター少年は、青い空と海が広がるハワイで、美空ひばりなど日本を代表する演歌を聞きながら、独自のギタースタイルを着実に築いていく。
 この後、どうしてもアメリカ本土に住んでみたかったというマーティはサンフランシスコへ移住。そこでもう一人の若手天才ギタリスト、ジェイソン・ベッカーと運命の出逢いを果たし、超高速ツインリードをフィーチャーした伝説のメタルギター・ユニット「カコフォニー」を結成。この頃、ツアーで日本を訪れたマーティは、更に恋心を燃やした。
1990年になると、メタリカなどスラッシュメタル四天王の一つメガデスに参加。代表作「ラスト・イン・ピース」を含め、世界で1000万枚以上のレコード売上を記録し、実力と名声共に世界を制した。

「日本の音楽って、僕のツボにはまるんですよ。前世は日本人だったと思いますね」と言うほど日本が馴染むマーティ・フリードマン。メガデスを脱退し、「自然の流れ」で2004年、ついに日本へ移住する。
「日本は11年くらいになります。米国にいる家族のことは恋しくなるけど、まぁ、国として住みやすい日本が僕には向いていますね。ここは安全だし、やりたいことが幅広く、たくさんあります。実際のところ、米国の音楽シーンには余り興味がなくて、ビルボードのトップ10には1曲くらい、イイナというのがあるけど、日本のオリコンだと10曲中9曲は好きな曲があります。結構変わっている人だと思いますよ、僕は」と笑うマーティ。
最初は演歌に惚れ込んだ彼だったが、今はJポップの超大ファン。「外国人のファンの視点から書きました」と言うマーティは、「い〜じゃん! J・POP だから僕は日本にやって来た」や、「サムライ音楽論」の著者でもある。
そんな彼の最近のお薦めはインディーズなら「trico」、日本の代表的なアイドル音楽なら「でんぱ組.inc」。世界的に人気を集める「BABY METAL」も、実はマーティ・フリードマンという存在が生み出した典型的なメタル・アイドルの一つかもしれない。

マーティはこれまで、コンスタントにソロアルバムをリリースしてきたが、昨年発表した12作目「インフェルノ」は、初めてビルボードにもチャートインし、好評に売上げも伸ばしている。
既に欧州、南米など一年かけてワールドツアーを行っているが、いよいよ念願の全米ツアーが実現する。故郷のボルチモアを始め、シカゴ、ロサンゼルス、ニューヨークなど21カ所を廻る、本人曰く事実上初のアメリカン・ツアー。
「今回のライブでは、もちろんインフェルノの曲もやりますけど、過去のソロアルバムからのナンバーや、サプライズの曲もやります!」と、マーティを通して日本の音楽も聞けるそうだ。
「日本の曲を海外でやるときは超楽しいですよ。僕のヘヴィなアレンジで『天城越え』とかやると、海外のファンは僕のオリジナル曲と思っちゃうみたいで、でも、調べたら『これカバー曲じゃん!』って。僕経由で石川さゆりさんや日本の音楽を発見するんです」
マーティが望んでいるように、彼の音楽が日本と世界の架け橋になっている。

日本人の心が宿るマーティ・フリードマン。日本人の我々も、彼のギターと音楽を通して、祖国日本を再確認する必要がありそうだ。Jポップ、アイドル、演歌、そんな日本の音楽を全部ひっくるめてマーティ節が炸裂する必見のコンサート。納豆のような粘りのあるメタルギターを聞けば、ニューヨークに日本海が浮かぶ。
(河野洋)

Marty Friedman
■9月10日(木)7:00pm
■会場:The Gramercy Theatre
 127 E. 23rd St.
 Tel: 212-614-6932
■$20
venue.thegramercytheatre.com



河野洋: 名古屋市生まれ。12歳でロックに目覚め、ギター、バンド活動を始める。89年米国横断、欧州縦断のひとり旅の後、92年NYに移住。03年ソロアルバムのリリースと同時にレコード会社、Mar Creation, Inc.を設立。現在は会社では、アーティストマネジメント、PR、音楽、映像制作などエンターテイメントに関連するサービスを提供するかたわら、「NY Japan CineFest」「j-Summit New York」などのイベントをプロデュース。その他にも、エイズ、3.11震災後の日本復興に関わるチャリティイベントや、平和、社会、環境問題などをテーマにしたプロジェクトにも積極的に取組んでいる。 ウェブサイト : www.marcreation.com / メール: contact@marcreation.com
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