2016年06月10日号 Vol.279

語感とサウンドで伝える
想い出、別れ、素顔…
シンガーソングライター 湯川 潮音


孤高のシンガーソングライター湯川潮音(ゆかわ・しおね)。草原から言葉を一語ずつ拾い集め、そよ風に旋律を乗せ、丘の向こうにストーリーを運ぶ。

東京に生まれた湯川は、1年365日ライブツアーでいつも家を空けていたと言うロックバンドのベーシスト湯川トーベンを父に持つ。
父は生業のロック業とは裏腹に、もっぱら家ではクラシックやウィーン少年合唱団のような合唱曲を愛聴していたと言う。その影響もあってか、湯川は合唱隊のオーディションを受けることを決め、父と猛特訓を始め合格する。10歳の時だった。
東京少年少女合唱隊の一員となった少女、潮音。世界を周る本格的な合唱隊が故、練習も過酷で脱落者も多かった。
「毎日練習に明け暮れ、夏休みなんてありませんでした。学校を休んで演奏会に出演することもあったくらいです」
歌の魅力に引き込まれていく湯川は、合唱団の活動と並行して、ソロ活動を始め、レコード会社に送ったデモテープがきっかけで17歳の時、レコードデビューを果たす。そして高校を卒業すると、湯川はアイルランドへ語学留学。
「ケルト音楽に興味があって、妖精や神話の国を選びましたが、アイルランドは意外と都会で妖精はいませんでした」と笑う。
英語を学ぶ為の海外留学だったが、彼女は何故か日本語に興味を持ち始める。そして広辞苑を一頁ずつ読みあさって、知らない言葉や季語、美しい日本語をどんどん吸収し、英語より日本語が趣味になった。
頭の中に蓄積された日本語がキャパシティを超え、詩を書き始めた湯川に、シンガーソングライターへの扉が開く。
始めの頃は歌詞ができると、音のイメージを絵に描き、それを元に作曲家にメロディーをつけてもらっていた。しかし、そのヴィジョンを元に自分でメロディーを書けばいいということに気がつくと、家に転がっていたギターを手にしてメロディを作り始める。父親譲りの才能か、6本の弦はしごく手に馴染み、19歳にしてシンガーソングライター湯川潮音が誕生する。
それからというもの、言葉とメロディのパズルが、次から次へと生まれた。湯川が紡ぐ独自の世界は膨らみ続け、近年、拠点を日本からニューヨークへ移した。
「米国でも日本語を大切にしています。私の音の世界を、語感とサウンドで伝えられたらいいと思っています」と、耳障りが固くない、優しい響きの日本語を大切にする湯川。
そんな詩人も最近は以前のように言葉が出てこないとのことで、言葉(歌詞)の無いアルバムを制作中だと言う。新しい挑戦だ。
「ニューヨークは、誰もが何かをやりに来ていて、求める人にはたまらない街だと思います。でも私がここへ引っ越して来た時は、逆に欲しいものがなくなってきた頃」
情報をたくさん得ることができるのは、自然の中にいる時だと話す彼女は、良くニューヨークの郊外の田舎を訪れるそうだ。
そんな湯川が、弾き語りのソロコンサートで歌う。日本ではバンドでライブをやることが多いが、今回のニューヨーク公演では原点に戻り、ギター1本の弾き語り。
「今回はアコースティックなので、私の歌詞の世界とか歌の響きを、座ってじっくりと楽しんでもらえると思います」

ニューヨークの街角に立つシンガーソングライター湯川潮音。ギター1本、声ひとつ。いつか来る別れ、湖に沈めた想い出、心の鏡の素顔、そんな世界が詰まった玉手箱を開いてくれる。(河野洋)

Shione Yukawa
■6月11日(土)8:30pm
■会場:Rockwood Music Hall Stage 3
 185 Orchard St.
 Tel:212-477-4155
■$10(※入場21歳以上・要写真ID)
rockwoodmusichall.com



河野洋: 名古屋市生まれ。12歳でロックに目覚め、ギター、バンド活動を始める。89年米国横断、欧州縦断のひとり旅の後、92年NYに移住。03年ソロアルバムのリリースと同時にレコード会社、Mar Creation, Inc.を設立。現在は会社では、アーティストマネジメント、PR、音楽、映像制作などエンターテイメントに関連するサービスを提供するかたわら、「NY Japan CineFest」「j-Summit New York」などのイベントをプロデュース。その他にも、エイズ、3.11震災後の日本復興に関わるチャリティイベントや、平和、社会、環境問題などをテーマにしたプロジェクトにも積極的に取組んでいる。 ウェブサイト : www.marcreation.com / メール: contact@marcreation.com
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