2016年05月27日号 Vol.278

ブラジルのグルーヴ感
これぞサンバジャズの真髄
サンバジャズ・ピアニスト Mika

André Vasconcellos(left) and Rafael Barata


人間は先天的に生まれ持つ何かがある。そして、それが何かを紐解くように、自分旅行をしながら見つけていく。
岡山県倉敷市に生まれたMikaは、クラシック音楽狂の父と、ピアノを手ほどきしてくれた母に育てられ、いつも家では音楽が流れていた。
「クラシックは超退屈で、ピアノのレッスンも大嫌いでした。いつも勝手に譜面と違う音を弾いては叱られていましたね」
音遊びが好きだった彼女は、家に誰かが来ると、直ぐに家にあった様々な楽器を担当させて一緒に演奏したと言う。

音楽はジャンルを問わず楽しんだが、中でもブラジル音楽が群を抜いて心に響く。次第にブラジルへの興味が深まっていった。
プロとして音楽活動を始め、沢山のミュージシャンと共演するようになったMikaだったが、いざブラジル音楽となると、どうもしっくり来ない。「グルーヴがブラジル人アーティストのレコードと違う…」そう感じた彼女は、どうしても自分の目で確かめたくなり、遠縁の叔母さんを訪ねることを口実に、ブラジル行きを決めた。
ブラジル人と演奏すると、胸に引っかかっていたものがすっかりとれた。日本人はリズムを音符通りオンタイムで弾くが、ブラジル人は突っ込みと溜めの振れ幅が大きい。そうすることで、うねるグルーヴ感を生み出す…探していた答えがようやく見つかった。

本来の居場所を見つけたMikaは、その直後に再び渡伯し、大空の下、5年間ブラジルの空気を吸う。その後も日本とブラジルを往来しながら、2006年にはリオ・デ・ジャネイロのミュージシャンたちと録音した自主制作アルバム「Mika/Elegant Samba Jazz」を発表。
2008年になると拠点をニューヨークに移し活動を世界へ広げ、ワシントンDC、パリ、インド、台湾などで公演するようになる。日本では「日本ブラジル交流100周年」の記念事業の一環として、国宝級ベーシスト、セルジオ・バホーゾと名実共に人気のドラマー、ハファエル・バラータと「Mika Samba Jazz Trio」で公演。2013年5月には同メンバーで、デビューアルバム「Mika Samba Jazz Trio vol.1」を日本国内で、翌年には「Samba For Johnny」を米国でリリースした。
2015年、ボサノバの巨匠マルコス・ヴァーリを迎えて「Balanço Zona Sul」を全世界に向けて発表、米国音楽誌「JAZZIZ」2016年冬号で、見事「Critics Choice 2015」 に選ばれた。
また、オリジナルメンバーを迎えての「Mika Samba Jazz Trio」は、全公演が完売と言う7年ぶりの全国主要都市ツアーを行い、大成功を収めた。

そんなMikaが久々のニューヨーク公演で、サンバジャズの真髄を聴かせてくれる。
「今回は何と言っても、ブラジルですら滅多に見られない強力なリズム隊に尽きますね。彼らのテクニックと音楽の理解力、呑み込みの早さは半端じゃありません」と興奮気味に語る。
グラミーの最優秀ラテンジャズ・アルバムを受賞したイリアーヌ・イリアスの「Made In Brazil」に参加したハファエル・バラータと天才バンドリン奏者のアミルトン・ジ・オランダやジャヴァンとの共演で知られるアンドレ・ヴァスコンセロス(ベース)の演奏は、芸術の域に達している必見のミュージシャンだ。
一般的には知られていないサンバジャズは、その名前が存在するようにジャズでもなくサンバでもない。
「基準はやはり踊れることですね。サンバのうねりを体験してしまうと、他の音楽が今ひとつ物足りなく聴こえてしまいます。そこにジャズの即興性が加わったサンバジャズは無敵です」
生まれながらにして持っていた「何か」をブラジルというパズルにはめ込んだMika。彼女が打つサンバジャズの波は正にこれからやってくる。(河野洋)

Mika Samba Jazz Trio
■6月1日(水)7:00pm〜9:00pm
 ※45分、2セット
■会場:Zinc Bar
 82 W. 3rd St.
■$15
zincbar.com


河野洋: 名古屋市生まれ。12歳でロックに目覚め、ギター、バンド活動を始める。89年米国横断、欧州縦断のひとり旅の後、92年NYに移住。03年ソロアルバムのリリースと同時にレコード会社、Mar Creation, Inc.を設立。現在は会社では、アーティストマネジメント、PR、音楽、映像制作などエンターテイメントに関連するサービスを提供するかたわら、「NY Japan CineFest」「j-Summit New York」などのイベントをプロデュース。その他にも、エイズ、3.11震災後の日本復興に関わるチャリティイベントや、平和、社会、環境問題などをテーマにしたプロジェクトにも積極的に取組んでいる。 ウェブサイト : www.marcreation.com / メール: contact@marcreation.com
「オンガク喫茶」のこぼれ話はブログ「ゼロからのレコードレーベル」
HOME