清水宏監督・回顧上映会
牧歌的情景に彩られた自然主義
「第二部:戦後とインディペンデント時代」
大正後期から昭和に活動した日本映画の知られざる巨匠、清水宏(しみず・ひろし)監督の回顧上映会が、5月4日(土)に始まり、6月1日(土)まで行われている。
二部構成の上映会で、「第一部:松竹時代」は19日(日)まで、アストリアの映像博物館「ミュージアム・オブ・ムービング・イメージ(MoMI)」で開催中。本紙前号で紹介した「第一部」に続き、今回は5月16日(木)から6月1日(土)まで、ジャパン・ソサエティー(JS)で行われる「第二部:戦後とインディペンデント時代」を紹介。キャリア晩年の貴重な作品群を上映する。
親友の小津安二郎と同じ年に生まれた清水宏(1903〜1966年)は、山中貞雄や溝口健二ら同世代の監督達からは賞賛されながらも、先鋭的な精神と豊かな才能を世の中からは評価されなかった日本映画の巨匠のひとり。サイレント時代から日本映画の黄金期まで、35年を越えるキャリアの中、160本以上の作品を監督。プロットに対し、緩やかなスケッチと自由な発想による型破りなアプローチ、田舎の広大な空気を巧みに映し出すカメラワークなどが特徴。牧歌的な情景に彩られた自然主義と、子ども達、働く女性、旅人、見捨てられてしまったような弱者の人生をセンターに捉え、叙情的に描く。
戦後、松竹を退社した清水は、自主制作映画、インディペンデント作品、新東宝や大映など、新たな道を歩み始めた。
1948年、自らの独立プロダクション「蜂の巣映画」を設立。数十人の戦争孤児を引き取って生活を共にしながら、その姿を綴った「蜂の巣3部作」=「蜂の巣の子供たち(1948年)」=写真①=、「その後の蜂の巣の子供達 (1951年)」、「大仏さまと子供たち(1952年)」=を発表。オール・ロケで制作した作品は、監督の「ありのままの姿を描く姿勢」が貫かれている。
戦後、第2作目となった「明日は日本晴れ(1948年)」もまた、オールロケで撮られた作品。
町と温泉町をつなぐバス内での物語で、初公開以降、公式上映の記録がなく「幻の作品」とされていた貴重な一本。
民謡・会津磐梯山に登場する「小原庄助さん」は、「朝寝朝酒朝湯が大好きで、それで身上つぶした」と歌われる架空の人物。
そんな男を題材にした「小原庄助さん(1949年)」=写真②=は、村一番の金持ちだが歌同様に、ぐうたらな男が主人公だ。人が良く、村人からの願いを気前よく聞いていたことで、ついに財産を使い果たしてしまう。人情とユーモアに溢れた傑作。
「小説新潮」に発表され、ラジオ・ドラマにもなった川口松太郎の原作「人情馬鹿物語」を映画化した「人情馬鹿(1956年)」。
キャバレーで働く歌姫ユリと、彼女に熱をあげ、会社の金を使い込んでしまったサラリーマンの津川。警察に逮捕された津川だが、そのひたむきさにユリの心が動いてゆく。愚かしくもあたたかい人間像が描かれている。
清水監督の遺作となった「母のおもかげ (1959年)」=写真③=。
母親が他界し、父と母の形見となった伝書バトのデデと暮らす小学生の道夫。父の再婚により、新しい母が幼女・エミ子を連れてやってきた。すぐに打ち解けたものの、なかなか「お母さん」と呼べない道夫。そんなある日、エミ子が誤ってハトのデデを逃がしてしまい…。
多感な少年に向き合う母の愛情に、思わず感涙する秀作。
全作品詳細は、ウェブサイトで確認を。
「第二部:戦後とインディペンデント時代」
- 5月16日(木)~6月1日(土)
- 会場:Japan Sociery 333 E. 47th St.
- 一般$16、JS会員$12
- ※レセプション付き上映会:(蜂の巣の子供たち、5/16)一般$18、JS会員$14
- ボックスオフィス:Tel: 212-715-1258
- japansociety.org
- 上映日程
- 5月16日(木)『蜂の巣の子供たち』&オープニングレセプション 7pm
- 5月17日(金)『明日は日本晴れ』7pm、『母情』9pm
- 5月18日(土)『人情馬鹿』3pm、『踊子』5pm 『しいのみ学園』7:30pm
- 5月23日(木)『霧の音』7pm、『人情馬鹿』9pm
- 5月30日(木)『小原庄助さん』7pm、『霧の音』9:15pm
- 5月31日(金)『その後の蜂の巣の子供たち』7pm、『母のおもかげ』9:30pm
- 6月1日(土)『踊子』3pm、『母のおもかげ』5:30pm、『大仏さまと子供たち』8pm