よみタイム|2024年10月4日号・Vol.479デジタル版 & バックナンバーはこちら

メトの屋上庭園「ペトリット・ハリライ:アベタレ」

戦火くぐった机の落書き、傷を追った子どもたちへ
「ペトリット・ハリライ:アベタレ」

今年でシリーズ11回目となるメトロポリタン美術館恒例の屋上展示「ルーフガーデン・コミッション」が、10月27日(日)まで開催中だ。

作品は、コソボ共和国(旧ユーゴスラビア)出身で、ベルリンを拠点に活動するアーティスト、ペトリット・ハリライ=写真=による「アベタレ(Abetare)」。空間に線画を描いたような金属彫刻で、同氏にとってアメリカ初の大規模な野外インスタレーションとなった。

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Petrit Halilaj, Abetare, 2024. Courtesy The Metropolitan Museum of Art. Photo by Eileen Travell

ユーゴスラビア紛争中(1991から2001年)、当時13歳だったハリライは、家族と共に国を脱出。アルバニアの難民キャンプで暮らしていた時、イタリアの心理学者チームが、子どもたちを争乱のトラウマから開放させようとフェルトマーカーを配布。ハリライが絵を描き始めるきっかけとなった。

紛争を生き延び、成長したハリライは2010年、故郷のコソボを訪問。取り壊されつつあった母校で、子どもたちが机の上に描いた落書きを発見。以来、バルカン半島各地の学校を訪れ、机に残された落書きを撮影、目録制作に時間を費やした。

本展タイトル「Abetare」は、子どもたちが最初にアルバニア語を学ぶ教科書名から。転じて「入門」という意味合いを持つ。

メトの屋上庭園という「机」に、立体的に描かれた「落書き」には、蜘蛛や小鳥、バットマン、ポップカルチャーへのオマージュなども見てとれる。

リリースでハリライは、次のように述べている。
「小学生が退屈し、気を紛らわせる時に机に描く落書きは、彼らの心情や夢を反映させています。本作を、戦争で人生を中断され深い傷を負ったすべての子どもたちに捧げたい。彼らの夢が、私たちをより良い未来へと導いてくれることを願っています」

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Petrit Halilaj, Abetare

  • 4月30日(火)〜10月27日(日)
  • 会場:The Met Fifth Avenue
    1000 Fifth Ave.
  • $30、65歳以上$22、学生$17、12歳以下/メンバー無料
    ※NY州住民とNY/NJ/CTの学生は入場料任意
  • www.metmuseum.org
PetritHalilaj

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