2016年04月22日号 Vol.276

続けるガッツと工夫があれば
何とかなるもんだ!
ピーランダーZ イエロー


マラソン・ランナーが、どんなに苦しくても走り続けることができるのはゴールがあるからだ。夜が来ても陽はまた上り、嵐が来ても必ず静寂がやってくる。継続。それこそが人生に栄光をもたらしてくれる。

兵庫県に生まれたピーランダーイエローこと日置健吾(ひおき・けんご)は、アート系の両親の元に生まれた。幼稚園の頃から絵描きを理由に引きこもり、ひたすらカンバスに色を広げた。大阪芸術大学を卒業後、上京しイラストレーターを目指すが実らない。一旗揚げようとアーティストになるべく1994年にニューヨークにやって来たが、生活が成り立たず…。
八方塞がりのイエローは、1998年にジャパニーズ・アクション・コミック・パンクバンド「ピーランダーZ」を結成する。「Yeah!」と叫べば、「Yeah!」と返ってくるロック。イエローは筆の代わりにギターを持った。
バンドのコンセプトは、イエローが大好きなプロレスと、戦隊ものキャラクターだ。おもちゃと漫画キャラクターがステージで繰り広げる正にアクロバティック・ロックンロール。ステージはリングと化し、危険も伴う命がけのライブ。
「ニューメキシコ州のライブで、バルコニーから飛び降りたんですわ。そしたら骨折しちゃって。痛いなぁと思いつつ、足をテープでぐるぐる巻きにして、杖をつきながら、その後も2週間ツアーを続けました」と痛い昔を振り返る。
それ以外にもプロレス技をステージでやったら、ギターで前歯を折ってしまったイエロー。今でも笑うと前歯が一本足りない。
「でもね、最近はアクションもプロフェッショナルになってきて、怪我も少なくなりました。ロートル・レスラーですわ」とベテランぶりを吐露する。
結成以来1400本以上のライブをこなしているピーランダーZ」に、もちろんツアーは欠かせない。春に2ヵ月、秋に1ヵ月強の全米ツアーを13年近く続けて来た。
「普通の人なら、とっくにやめていますよ。でも、やっている奴だけが生き残れるんです。才能がなくても、続けるガッツと工夫があれば何とかなるもんです!」
ライブとツアーは彼らのチャンピオンベルトだ。
そんな彼らでも、ファンが増えない、アメリカの経済は落ち込む、メンバーチェンジの危機など、ドン底を嫌というほど味わって来た。それでも彼らは低空飛行で辛抱強くライブを続けた。

彼らには切っても切れないものがある。テキサス州オースティンで開かれる世界最大の音楽コンベンション「SXSW」だ。この13年もの間、コンスタントに出演し、着実にファンを増やして来た。今では彼らなくしてSXSWは語れないと言っても過言ではない。その証拠は、彼らがプレゼンする「ピーランダー・フェスト」だ。「SXSWは大人が楽しむところばかりだから、子供たちは、留守番ばかりでさぞかし淋しかろう」と始めた子供向けイベント「マッドタイガーフェスト」は、共に人気の的だ。
そんな中、イエローは密かに絵描きの種まきもしていた。地道に壁画や個人所有のガレージ、台所などに、イエローの「アート」を描いていたのだ。このSXSWでの地味な営業活動がジワジワと彼の画家としてのステータスを築いていた。
絵とバンドの両立は不可能だと思っていたが、ここ1、2年で「イエローの絵を描いて欲しい」という要望が軒並み増えて来ている。そこで決心したニューヨークからオースティンへの引越。慣れ親しんだ街を後に、テキサスを拠点にリフレッシュする。
オースティンの利点は、米国の真ん中の南という恰好のロケーション。ツアーバンドであるとは言え、ニューヨークを拠点にしていると西海岸まで回れば2ヵ月は家に帰れない。しかし、テキサスをホームタウンにすれば、東海岸、西海岸、シカゴへの中北部と大陸を3等分して、帰宅を間に挟みながら全米ツアーができる。やはり、ホームスイートホームだ。

そんな彼らのNY在住最後のライブが5月8日、ブルックリン・ボウルで開催される。華を添えるのは彼らにゆかりのあるバンドたちと着ぐるみプロレス団体「怪獣ビッグバトル」。「NY在住最後のライブなので、めっちゃ楽しい仕掛けも考えていて、自分でも楽しみなんです」と、イエローの言葉にも力がこもる。今回はいつもの破天荒ぶりに、さらに輪をかけたスーパーワイルドなステージが期待できそうだ。

走り続けたイエローが得たものは、名声でもお金でもなく「持続力」だ。休まず継続を支える経験とサバイバル力。「その気になれば誰にでもできる」そんな勇気と元気を与えてくれるイエロー、実は凄いパンクロッカーなのだ。(河野洋)

Peelander-Fest in NY
■5月8日(日)8:00pm
■会場:Brooklyn Bowl
 61 Wythe Ave., Brooklyn
 Tel: 718-963-3369
■$15 *入場18歳以上
www.brooklynbowl.com


Mad Tiger(映画)
■5月6日(金)〜12日(木)
■会場:IFC Center
 323 6th Ave.
 Tel: 212-924-7771
www.ifccenter.com



河野洋: 名古屋市生まれ。12歳でロックに目覚め、ギター、バンド活動を始める。89年米国横断、欧州縦断のひとり旅の後、92年NYに移住。03年ソロアルバムのリリースと同時にレコード会社、Mar Creation, Inc.を設立。現在は会社では、アーティストマネジメント、PR、音楽、映像制作などエンターテイメントに関連するサービスを提供するかたわら、「NY Japan CineFest」「j-Summit New York」などのイベントをプロデュース。その他にも、エイズ、3.11震災後の日本復興に関わるチャリティイベントや、平和、社会、環境問題などをテーマにしたプロジェクトにも積極的に取組んでいる。 ウェブサイト : www.marcreation.com / メール: contact@marcreation.com
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