2016年4月8日号 Vol.275


人の「声」が持つエネルギー
現代の賛美歌
サウンドクリエイター ハチスノイト



水面に浮かぶ「はちす(蓮)」の花。水面下の重力と完璧なバランスを保ちながら深く根を広げる。その美しさは永遠の神秘へと繋がっていく。

ヴォイスアートを追求するサウンドクリエイター、ハチスノイトは北海道の知床に生まれ、6歳でその地を離れるまで、白銀の世界と自然の景色を記憶に残した。
「故郷の美しい情景が心の中に眠っていて、今でも訪れると明らかに自分の中に残っている一面に広がる白の世界や、森に行った時に感じる自然の美しさや静けさが感じられます」
その頃からハチスはモダンバレエを習い始め、体を使ってリズムを感じるようになる。そして、京都の大学では、宮内庁の楽士について雅楽に触れ、神学楽器でもある篳篥(ひちりき)や奉納の舞などを学び、独自の世界観を深めていく。
その後、本格的に音楽活動を始め、子供のころ心に美しく響いた「はちす(蓮)の糸」、ハチスノイトをアーティスト名に決める。
「蓮(の糸)は池の水面を境に、この世とあの世を結んでいる説話があります。音楽のように橋渡しができると言う意味でもハチスノイトの名前はしっくりきました。音楽を通して、生きていてもあの世に通ずるという、意味合いも深い、美しい言葉だと思います」
彼女の歌詞は独特だ。自分の中の面白い発音、音楽的にユニークな音、音楽にぴったりの発音を組み合わせた造語のような「自分語」で歌う。
そしてハチスノイトの音楽は聖歌、オペラ、声楽に通じるものがあり、そうしたジャンルに精通していると思われがちだが、実は彼女は一度も西洋音楽の勉強をしたことがないと言う。それよりも彼女は民謡にとても興味があり、ブルガリアン・ヴォイスなど、声のエネルギーに引き寄せられる。

2014年、待望のデビューアルバム「Universal Quiet」が完成。「祈りは声から始まりますし、私は人間の声が好きで力を感じます」と語るハチス。「現代の賛美歌」と賞賛を受ける全曲オリジナルの同作は、即興で歌ったものを繋ぎ合わせていくというプロセスの中、彼女の声のみで録音された。
「どんな声が自分から出るのか、低い声から高い声まで、奇麗な声から汚い声までどこまで出せるのか?」ハチスノイトの声への探究心は果てしなく続く。
2015年12月にはミニアルバム「Illogical Dance」をリリース。ここでも彼女は、斬新なアイデアと手法でハチスノイトのヴォイスワールドを作り上げている。
「声とか発音とかが好きで外国語の特有な発音にも興味があります。私の歌詞は発音の切れ端のミックスですね」

そんな彼女が、いよいよニューヨークへやってくる。初のアメリカツアー、初の海外公演と初尽くめだ。
「ニューヨークは表現に対して懐が深い印象があります。今回は自分がやりたいことを、遠慮せずに自由に伸び伸びとやりたいと思います」と話す。
公演は2回行われ、13日のブルックリン公演ではNYで独自のワールド音楽を追求するルーラ・レイラ(Lulla LayLa)、J・アフリカンの先駆者アイコ率いる「Iyco & Kaka Furaha」、そして昭和歌謡やスウィングジャズを巧みに融合した新感覚のエレクトロ・ポップデュオ「Twisty BonBon」とステージを共有。14日のマンハッタン公演ではソロパフォーマンスでハチスノイトの至上のヴォイスワールドを満喫させてくれる。

はちす(蓮)の無数の糸が紡がれる時、陰と陽が一本の線で結ばれる。ハチスノイトの崇高なヴォイス・コラージュが、オーディエンスの前世を呼び戻し、肉体は真っ逆さまに落ちながら、魂だけは昇華していくという摩訶不思議な超自然体験をさせてくれるだろう。(河野洋)

Hatis Noit, Lulla LayLa, Iyco & Kaka Furaha, Twisty BonBon
■4月13日(水)8:00pm
■会場:Black Bear Bar
 70 N 6th St, Brooklyn
■前売$10、当日$12
 www.ticketfly.com/event/1121427-hatis-noit-us-tour-brooklyn
www.blackbearbk.com

Hatis Noit
■4月14日(木)8:00pm
■会場:CRS (Center for Remembering & Sharing)
123 4th Ave, 2nd Fl.
■前売$15、当日$20
www.crsny.org


河野洋: 名古屋市生まれ。12歳でロックに目覚め、ギター、バンド活動を始める。89年米国横断、欧州縦断のひとり旅の後、92年NYに移住。03年ソロアルバムのリリースと同時にレコード会社、Mar Creation, Inc.を設立。現在は会社では、アーティストマネジメント、PR、音楽、映像制作などエンターテイメントに関連するサービスを提供するかたわら、「NY Japan CineFest」「j-Summit New York」などのイベントをプロデュース。その他にも、エイズ、3.11震災後の日本復興に関わるチャリティイベントや、平和、社会、環境問題などをテーマにしたプロジェクトにも積極的に取組んでいる。 ウェブサイト : www.marcreation.com / メール: contact@marcreation.com
「オンガク喫茶」のこぼれ話はブログ「ゼロからのレコードレーベル」

Copyright (C) 2015 YOMITIME, A Division of Yomitime Inc. All rights reserved