2016年3月11日号 Vol.273


多くの人と繋がりたい
「歌心」持つドラマー
松浦 宏之


航海する船のように、潮の流れを感じ、波と共に揺れながら、水平線に確かな姿を映し出す。音楽におけるドラムは正に船のようなものだ。港から港へ、島から島へ。旋律を乗せてシンガーのメッセージをオーディエンスに届ける。そんな「歌心」を持っているドラマーが「マツ」こと松浦宏之(まつうら・ひろゆき)だ。

1975年、横浜に生まれたマツは、両親が音楽好きなこともあって、小さい頃から両手両足を使うエレクトーンを習い始めた。歌も好きで、母が伴奏するフォークギターに併せて、兄と一緒に良く歌った。
こと音楽に関しては「母の影響が強かった」と言うマツは、ある時から部屋の中に置かれた電子ドラムに興味を抱くようになる。それはマツへのプレゼントではなく、なんと母がドラムを習い始めたからだ。母はジャズやフュージョンを聴き、著名ドラマー、デイブ・ウェックルの教則ビデオまで持っていた。そんな環境に置かれたマツは中学生の頃には、自然とジャズを聴く耳が養われ、当時、「ザ・チック・コリア・エレクトリック・バンド」と「ザ・ケルン・コンサート/キース・ジャレット」を毎晩欠かすことなく聴いていたと言う。
 高校になるとブラスバンドに加入。本格的にドラムを始める。同級生たちとバンドを組み、ロック、歌謡曲、フュージョンなどジャンルを選ばず、音楽と向き合った。時間さえあれば、一人でもドラムセットに腰を据え、黙々とドラムの練習に打ち込んだ。
大学では音楽とは無縁の会計学科を専攻したが、音楽活動は更に充実していく。
ある日、サークルのドラマーの先輩たちが、デニス・チェンバース・ドラム・コンテストに出るという話を聞き、自分のドラムに密かな自信を抱いていたマツはすかさず応募。何と優勝を果たすと、それがきっかけで様々な音楽グループから声がかかるようになる。ドラムを叩き始めて僅か4年後の出来事だった。
その後、プロとしてのドラマー人生が軌道に乗るが、密かに憧れていた街に拠点を移す決意をする。
「このまま日本にいたら仕事が忙しくなって、ニューヨークへ行けなくなってしまう」そんな思いに駆られたマツは、2002年ついに渡米、マンハッタンのハンター大学に語学入学をし、1年後にはニューヨーク市立大学シティカレッジのジャズ科に入学した。最低限の音楽理論を学びたいと言う思いだった。また、マツのアイドルだったチックコリアバンドのジョン・パティトゥッチ(ベース)が同大学の教員の一人だったことも大学入学に拍車をかけた。
大学を卒業後は更に音楽活動が充実し、今や年間260本ものショーをこなし、マジソン・スクエア・ガーデン、ラジオ・シティ・ミュージック・ホールなどの大舞台に立つ。数々のグラミー賞受賞アーティストとも共演するマツは、リヴィング・カラーのヴァーノン・リードがプロデュースするアルバム「Shelley Nicole's BlaKbüshe」にも参加し、年内にはリリースされる予定だ。

以前、「荒削りだがお前のドラムには歌心がある」と言われた事があるマツは、他のジャンルに比べて歌物の仕事が多いと言う。この春にも、マルティーナ・フィシェロヴァー(3月13日)、シェイナ・タウブ(3月28日)、グレイス・マクリーン(4月1日)と実力派女性シンガーソングライターたちとの共演が控えている。
また、現在出演中のオフ・ブロードウェイ「オールドハッツ」では専属ドラマーとして演奏するだけではなく、脇役ではあるがステージの上で演技も見せている。
「自分はテクニックを見せるために音楽をしたいのではなく、音楽をする為に色々な引き出しを用意しておくというのが僕のスタンス。自分自身に嘘をつかないドラムを叩いていきたいし、昨日の自分より今日の自分が良くなっていたい」
音楽を通して、より多くの人に届ける、そして、より多くの人と繋がることが目標だと言うマツは、きっと沢山の人の心にビートを刻んでいくことだろう。(河野洋)

Martina Fišerová
■3月13日(日)8:00pm
■会場:Rockwood Music Hall
 196 Allen St.
■無料
www.rockwoodmusichall.com

Shaina Taub
■3月28日(月)9:30pm
■Joe's Pub:425 Lafayette St.
■$20
www.publictheater.org

Grace McLean and Them Apples Concert:
Lincoln Center American Songbook
■4月1日(金)8:00pm
■会場:Stanley H. Kaplan Penthouse
 165 W 65th St. 10th fl.
■$45〜
gracemclean.com

Old Hats(オフ・ブロ)
■4月3日(日)まで
■会場:The Pershing Square Signature Center
 480 W. 42nd St.
■$35〜
www.signaturetheatre.org




河野洋: 名古屋市生まれ。12歳でロックに目覚め、ギター、バンド活動を始める。89年米国横断、欧州縦断のひとり旅の後、92年NYに移住。03年ソロアルバムのリリースと同時にレコード会社、Mar Creation, Inc.を設立。現在は会社では、アーティストマネジメント、PR、音楽、映像制作などエンターテイメントに関連するサービスを提供するかたわら、「NY Japan CineFest」「j-Summit New York」などのイベントをプロデュース。その他にも、エイズ、3.11震災後の日本復興に関わるチャリティイベントや、平和、社会、環境問題などをテーマにしたプロジェクトにも積極的に取組んでいる。 ウェブサイト : www.marcreation.com / メール: contact@marcreation.com
「オンガク喫茶」のこぼれ話はブログ「ゼロからのレコードレーベル」

Copyright (C) 2015 YOMITIME, A Division of Yomitime Inc. All rights reserved