2016年2月12日号 Vol.271


癒しと喜びを分かち合う
ソウルフルな歌声
シェイナ・タウブ


オフ・ブロ「オールド・ハッツ」に出演するシェイナ(中央) 
OLD HATS, (l to r) Bill Irwin, Shaina Taub and David Shinner, Photo © Kevin Berne


緑茂るヴァーモント州で生まれ育ったシェイナ・タウブ。森がステージなら、シェイナ・タウブの歌声は木霊する妖精の囁き。眩しい太陽や月の光は照明となり、そよ風や鳥のさえずりが舞台を彩る。
シェイナは「コーラスライン」、「ガイズ&ドールズ」、「レント」といったミュージカルが大好きで、子供の頃からダンスやボイスレッスンに明け暮れた。
彼女に多大な影響を与えたスティービー・ワンダー、キャロル・キング、ジョニ・ミッチェル、ローラ・ニーロ、ポール・サイモン、ローリン・ヒル。70年代のシンガーソングライター、ソウルミュージックやモータウンの虜にもなった。
シアターと音楽への情熱。このコンビネーションがシェイナのたゆまざる努力と共に大きくなり、ついには彼女を華やかな舞台に引き上げた。

2年前に上演、大ヒットしたオフ・ブロードウェー「オールド・ハッツ」が、シグネイチャーシアターにカムバック、4月3日まで上演中だ。二人の道化師が台詞なしで観客を爆笑させるヴォードヴィルに、シェイナのパフォーマンスが加わった。
「2年前の初演時は、ソールドアウトでチケットすら購入することができなかったから、実際にはビデオでしか見たことがなかったの」
そんな憧れのショーで、音楽を担当するシンガー役に見事抜擢されたシェイナ・タウブ。コントとコントを挟む形で歌や演奏を披露しショーを彩る。子供の頃に夢見た自分と現実の自分が一つになった。
「コメディは万国共通のものよ。文化も人種も年齢も関係なく世界を一つに結ぶものなの」
シェイナの才能はこれまでに様々な形で証明され、彼女は既に頭角を現していた。
ニューヨークのライブシーンでは常連のシェイナだったが、昨年はリンカーンセンターで開催されたアメリカン・ソングブック・シリーズでデビューソロコンサートを飾り、マンハッタンの著名音楽クラブ、ジョーズ・パブのコンサートはソールドアウト、デビューEP「What Otters Do」はニューヨークの人気ラジオ局WNYCのベスト・オブ・ザ・イヤーに選ばれる。

昨年暮れにリリースされたデビューアルバム「ビジターズ(訪問者たち)」では、シェイナのソウルフルな歌声が、懐かしさと温もりを感じさせながらも瑞々しい旋律と共に聴くことができる。アレンジは異なるが、オールド・ハッツで歌う2曲も含まれている。
中でも印象に残るのが、男女各6人計12名のシンガーからなるコーラス隊によるハーモニーとシェイナの絡みだ。感情との対話、社会における一個人など、複雑で入り組んだ世界を何層にも重ねられた合唱とシェイナの歌声がうまく表現されている。
「レコーディングでは6つの異なるパートで構成されたハーモニーを重ねたの。とにかく時間をかけて色々な組み合わせを試しながら作ったわ」
才能とは日々の鍛錬の上に存在するもので、良い曲とて決して天から舞い降りてくるものではないと主張するシェイナ。
「作曲は毎日の仕事よ。思い立った時に取り組んで直ぐに良いものが生まれることはないわ。常に自分に厳しく、入念に練り上げていくことで納得できるものが出来上がると思うの」
オリジナル曲は歌詞から書くことが多いというシェイナは曲の中で明確なイメージや物語を伝える。それがアルバム「ビジターズ」に込められている。
ビジターズは一つの大きな家であり自分の魂を現している。往来する訪問者たちは感情だ。感情に良し悪しはなく、全てを受け入れなくてはいけない。思い出も痛みも全て自分の家のどこかの一室に横たわっている。癒しと喜び。それを分かち合うシェイナの音楽。

そんなシェイナが、3月28日、イーストヴィレッジのジョーズ・パブでCDリリースコンサートに出演する。今回はアルバムに参加したミュージシャン26名が全員出演し、アルバムに収録された全曲を演奏すると言うゴージャスなショーになる。
音楽とシアター。この二つの世界をシェイナ・タウブが1枚のキャンバスに描く。疲れた時、楽しい時、いつだって訪問したいシェイナの音楽の家がそこにある。(河野洋)

Shaina Taub
■3月28日(月)9:30pm
■会場:Joe's Pub
 425 Lafayette St.
 Tel: 212-967-7555
■$20
www.publictheater.org


Old Hats(オフ・ブロードウェー)
■4月3日(日)まで
■会場:The Pershing Square Signature Center
 480 W. 42nd St.
 Tel: 212-244-7529
■$45〜
www.signaturetheatre.org



河野洋: 名古屋市生まれ。12歳でロックに目覚め、ギター、バンド活動を始める。89年米国横断、欧州縦断のひとり旅の後、92年NYに移住。03年ソロアルバムのリリースと同時にレコード会社、Mar Creation, Inc.を設立。現在は会社では、アーティストマネジメント、PR、音楽、映像制作などエンターテイメントに関連するサービスを提供するかたわら、「NY Japan CineFest」「j-Summit New York」などのイベントをプロデュース。その他にも、エイズ、3.11震災後の日本復興に関わるチャリティイベントや、平和、社会、環境問題などをテーマにしたプロジェクトにも積極的に取組んでいる。 ウェブサイト : www.marcreation.com / メール: contact@marcreation.com
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