2018年1月12日号 Vol.317


弁護士からのアドバイス
「日本人」を活かせる仕事を
照明デザイナー:横山 麻里衣




横山氏が手がけた舞台照明(Photo by Walter Wlodarczyk)


先駆者たちの声(Voice)を聞き、ヴィジョン(Vision)を描き、活力(Vitality)を発揮して、ヴィクトリー(Victory)を掴もう! アメリカでチャレンジするための必読バイブル「ザ・V・ファイル」!


東京に生まれた横山麻里衣(よこやま・まりえ)は、母の仕事の関係で3歳~5歳までシンガポールに住み、英語環境で育った。その為か、日本へ戻った頃は、日本語も英語もどっちつかずで、表現することが苦手で、どちらかというと内向的な性格になってしまう。
9歳年上の姉も含め、横山の母にとっての娘たちの幸せは、学校の成績の良し悪しよりも自分がやりたいことを見つけて仕事につなげるというものだった。母は自分自身が仕事で苦労したこともあり、娘たちには自由奔放で、日本よりも海外に目を向けてもらいたかったと言う。その願いも手伝って、横山は学生ビザ(F1)を取得して、米国のカリフォルニア州立大学ロングビーチ校へ留学する。

横山は子供の頃からコミュニケーションが不得手で、言葉を使わない表現のはけ口として、たくさんの絵を描いた。心にスポットライトが欲しかった。
「絵を描くのは大好きでしたが、何故か自分の作品には全く興味がなく、作品を完成させては捨てていました。だから舞台の世界を知って、私はどんどんのめり込みました」と当時を振り返る。
『残らない芸術』と言う意味で、麻里衣の心を掴んだのが照明デザインだった。
「照明は瞬間、瞬間のアートです。終わりがなく、常に挑戦できるところが大好きなんです。そして、舞台関係の仕事は人とのコネクションが全て。それがとても新鮮でした」
引っ込み思案だった彼女にとって、人と会話することは心地良いチャレンジだったと言う。
米国に住みたい、仕事をしたい、野心はあれど、キャリアの礎になるものすらない学生にアーティストビザ(O1)は発行されない。横山はイェール大学ドラマスクールへ進学し、さらに照明の勉強に励んだ。そして、得たオプショナル・プラクティカルトレーニング(OPT)。これは大学などを卒業した後、学生ビザを所有する学生に与えられる制度で、1年期限で実践(就労)ができるものだ。
だが、いくら技術もセンスもあると豪語したところで、キャリアのない者に簡単には就職への扉は開かれない。そこで、OPTの一年で、レジュメに使えるような自分が求める業種の会社でインターンをしてクレジットを増やしたり、無償でも働き、ポートフォリオを充実させることに専念する。真の忍耐力が試される時期だ。
「アーティスト・ビザを取るために大学院へ行くのはプラスになります。クレジットを増やす方法としては、海外でも知られているような大きな仕事をするか、小さな仕事をたくさんこなすかです。私は弁護士から、日本人であることを活かせるよう、米国人にはできないようなアジア系の仕事をできるだけ取るように、とアドバイスを受けました」
加えて、キーポイントはネットワーキングだった。
「OPTの間、毎朝2時間は必ず知らない人にメールをしていました。ほとんど返信はありませんが、こればかりはやってみないとわかりません。10人にメールして1人からでも返事が来たら成功です」と地道な努力を怠らなかった。
仕事の50%は大学院の仲間から、残りはシアター関係のオープニングパーティーに手当たり次第に出席し、とにかく人と接し、人脈を広げ、仕事を見つけたと言う。好きなことをやりたいという情熱が、シャイな横山の性格に社交性を与えた。
そんな苦労が報われ、OPTが切れる前にアーティストビザを申請。通常なら3ヵ月ほどで承認されるところ、彼女の場合、6ヵ月かかったと言うが、大学院を卒業してから1年半でO1ビザ(3年期限)を取得。その後、ビザを2回(期限は各3年)を更新して現在O1ビザ所持歴6年半になる。承認にも1回目は6ヵ月かかったが、2回目は1ヵ月、3回目は3週間と、どんどんスピードアップしてきている。次はグリーンカードを申請する予定だ。

現在も、ここニューヨークでバリバリと舞台の仕事をこなしている横山麻里衣。1月11日(木)から上演の「ピロートーク」(詳細)ではセットと照明デザインを担当している。
決意と野望を持ってすれば、道は必ず開かれる。開拓精神がサクセスストーリーを生み出すアメリカ。夢は目の前に広がっている。(マークリエーション)

横山麻里衣HP
www.marieyokoyama.com




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