Copyright 2008 YOMITIME, A Division of Inter-Media New York, Inc. All rights reserved


お特な割り引きクーポン。
プリントアウトして
お店に持って行こう!

よみタイムVol.103 12月26日号
イベント情報






 連載コラム
 [医療]
 先生おしえて!

 [スポーツ]
 ゴルフ・レッスン

 NY近郊ゴルフ場ガイド


 [インタビュー]
 人・出会い
 WHO
 ジャポニズム
 有名人@NY

 [過去の特集記事]

 よみタイムについて
 
よみタイムVol.103 2008年12月26日発行号
新春に想う
テレビジャパン・社長
谷村 啓

大きな夢と熱き情熱
実現へ前進あるのみ


 NHK日曜夜の大河ドラマ「篤姫」の放送は、高い人気のうちに終わりました。
 テレビジャパンでご覧いただいた方も多いと思います。江戸城大奥の最後を生きた一人の女性の波乱の生涯は勿論のこと、幕末から維新にかけての動乱期を駆け抜けた若き志士達の姿が、多くの共感を得たのだと思います。「新しい国を造ろう」という高い志、夢の実現に向けて、ひたむきに情熱を燃やす若者の姿は、、夢に向かって生きることの大切さを教えてくれました。
 時代は下って、現代の日本の政治を見るにつけ、首相がクルクルと交代するような政治のリーダーの不在、政治の人材不足は、幕末と同じような社会の閉塞感を引き起こしています。政治に高い志を持った若い新たなリーダーが登場することを願わずにはいられません。

 アメリカでは、1年かけて国のリーダーを選ぶ大統領選挙が行われ、オバマ氏が選ばれました。アメリカ独特の選挙方法は、昔、情報伝達手段が乏しい広大な国土で、国民が投票で大統領を選ぶために、まず各州ごとに大統領選挙人を選び、その人たちがワシントンに集まって大統領を選任するやり方であり、今もそれを守っています。

 4年に一度、年初から始まる各党・各州の予備選を経て党の指名を勝ち取り、11月の本選挙に臨む。その間に、政治・外交・経済の素養、指導力、知力、行動力、果ては文化的素養、ユーモアのセンスにいたるまで、誰がアメリカ大統領にふさわしいかが、過酷なまでに国民の前でテストされます。日本に比べると数段、否、数十段も高いハードルのリーダー選びと言えます。
 そうして選ばれたオバマ大統領は、チェンジ(変化)を合言葉に、広い視野とビジョン(想像力)を持って国民に夢を与えられるかもしれません。それだけに国民のオバマ大統領への期待には大きなものがあります。
 しかし、政権のバトンタッチの時期としては、最悪の状況です。国力の弱くなったアメリカに、100年に一度の国際経済・金融の危機、そしてイラク、アフガニスタンでの泥沼の戦争などが追い討ちをかけます。
 予想もしなかったような厳しいスタートラインに立たされたオバマ大統領です。遅くとも2年後の中間選挙までに、目に見える成果が出ないと、国民の期待が大きいだけに反動もまた大きく、人気も一気にしぼみかねないとも言われています。新大統領が、全てのエネルギーと情熱を注いで、まず目の前の問題解決に取り組み、アメリカを変えてゆく夢に向かって進んで欲しいと思います。

 11月半ばにニューヨーク市ブロンクスのウッドローン墓地で、野口英世博士の没後80年の墓前祭が行われました。苔むした墓石と銅の刻版は80年ぶりに修復、整備され、この日の除幕式になりました。
 式には米国日本人医師会の先生方や野口英世の伝記を持った少年も来ていました。私の小学生時代、伝記本といえば野口英世かシュバイツァー博士と決まっていたほどでした。1900年、単身アメリカに渡り、黄熱病の病原を究めようとした野口博士の顕微鏡にかけた夢と情熱。その野口博士をアメリカで終始、支援し続けたサイモン・フレクスナー博士の夢と情熱は、いずれも、今も輝きを失っていないように思えました。
 余談になりますが、野口英世がニューヨークのロックフェラー医学研究所で毎日顕微鏡に向かっていた同じ頃、オランダの17世紀の風俗画家ヨハネス・フェルメール(瞬間の微妙な光の加減をカンバスに切り取った画家。現存37点といわれる)の絵のいくつかが、ニューヨークのフリックとメトロポリタン二つの美術館に入りました。研究所の行き帰り、野口博士が美術館に立ち寄り、フェルメールの絵と邂逅(かいこう)したであろうという分子生物学者、福岡伸一青山学院大教授の推理は知的想像力を駆り立てる読み物でした。(全日空機内誌「翼の王国」08年6月号〜8月号)

 08年のノーベル物理学賞と化学賞を、同じ時に4人の日本人学者・研究者が受賞したのは、かつてない素晴らしいことです。受賞者は、12月半ばのストックホルムでの受賞式後の記者会見で、「新しいことを発見する喜びのために情熱をかけてきました」と異口同音に語っていました。研究を持続する上で、夢と情熱が如何に大切かと言うことを改めて教えられ、とても印象的でした。
 スポーツの世界では、大リーグ野球の野茂英雄がついに引退しました。1995年、日本のプロ野球の古い体質から飛び出し単身アメリカで未知の大リーグに挑戦した野茂。厳しい競争の中で夢を追いかけ続け、新人王獲得、2度のノーヒットノーランを達成するなど13年間活躍しました。大リーグ中継で聞こえるピッチャー紹介の場内アナウンス「Hideo  Nomo」は、あたかも「出でよ野茂」と聞こえたものでした。そのせいではないでしょうけれど、イチロー、佐々木、松井、松阪、他多くの日本のプロ野球選手が、野茂に続けとばかりにアメリカに渡って来ました。皆、夢を追いかけ、情熱をかけて大リーグに参加したのでした。

 今、東京の本屋でのベストセラー「強欲資本主義 ウォール街の自爆」(神谷秀樹著 文春新書)を読みました。アメリカの投資銀行の変質と証券関係者、銀行家、一般企業家の強欲へのモラルハザードがアメリカの資本主義を破滅寸前にまで追い込んでしまったと指摘、今こそ、日米の国民が真に望む経済社会とはどんなものなのかを考え直すべきだと言っています。著者の神谷秀樹(みたに ひでき)氏は、日本の銀行、アメリカの証券会社を経てニューヨークで小さな投資銀行を設立したバンカーで、私はインタビューで、社会に役立つ小さな投資銀行を設立した意味を直接聞いたことがあります。バンカーの矜持(きょうじ)とは、自分の金儲けのためではなく、社会や人々の役に立つためと話してくれたことを思い出します。今も、ソーシアル・アントレプレナー(社会起業家)として高い志、夢を持ち続け、情熱をかけていることを改めて知り、嬉しくなりました。
 11月下旬、マンハッタン内で開かれた「Saeko Ichinohe Dance Commpany 」の創立39年記念公演を鑑賞しました。源氏物語が世に出て1000年の今年、源氏物語の真髄をダンスという芸術で表現したものでした。ダンスを通して日米の文化の架け橋になろうという大きな夢に向かって、ニューヨークを拠点に40年あまり、持てるだけの情熱と行動力で取り組んできた一戸小枝子さんのダンスに、まさに心技体が揃った、夢を追う芸術家の姿を見たのでした。
 私は、アメリカの詩人、サミュエル・ウルマンの詩「青春」が好きです。「青春とは、人生のある期間ではなく、心の持ち方を言う。たくましい意志、豊かな想像力、燃える情熱を指す。青春とは、人生の深い泉の清新さを言う。年を重ねただけでは人は老いない。理想を失う時、初めて老いる。歳月は皮膚にしわを増すが、情熱を失えば心はしぼむ」(松永安左エ門 訳)。この詩は、私のような還暦を過ぎた人間の胸にも深く響きますが、夢や理想が見つからず、情熱が湧かないと白けている若い人達にも、よく読んで、味わってほしい詩です。年齢はいくら若くても、夢や情熱のない人の心は若者ではないのですから。

 テレビジャパンの自主制作番組に「情熱トーク USA」というインタビュー番組があります。出演の皆さんは、それぞれの持つ夢や志、そして、それを実現するためにどんなに情熱を傾け、努力を続けているかを、熱っぽく語ってくださいます。何度となく挫折しても、夢と情熱を持ち続けることの大切さを教えてくれます。
 夢は、ただ待っていて実現するものではないのです。運やつきで本当の夢を実現した人はいないでしょう。卑近な例ですが、「棚からボタ餅」という調子の良い話にしても、その前に、ボタ餅が落ちそうな棚を見つけて、その棚の下まで自分が近づく努力をしなければ、自らの手でボタ餅を受け止めることはできないのです。
 2009年の世界は、不況の嵐の中、本当に住みにくい厳しい世の中になるだろうと思います。そんな時だからこそ、誰しも、大きな夢と高い志を持ち続け、熱き情熱を一層傾けて、新しい年が自分の夢に一歩でも近づく年になるよう前進して欲しいと思います。

1971年早稲田大学卒。NHK経済部記者、アメリカ総局長などを経て2006年から現職 ニューヨーク在住 。