2017年12月1日号 Vol.315

絵画の「タブー」に次々挑戦
楽しさとアイデア溢れる野心作
「ローラ・オーエンス」


Laura Owens, Untitled, 1997. Whitney Museum of American Art, New York © Laura Owens


Laura Owens, Untitled, 1998. Courtesy the artist; Gavin Brown's enterprise, New York/Rome; Sadie Coles HQ, London; Galerie Gisela Capitain, Cologne © Laura Owens


Laura Owens, Untitled (detail), 2012. Collection of Maja Hoffmann/LUMA Foundation © Laura Owens


Laura Owens, Untitled, 2014. Whitney Museum of American Art, New York © Laura Owens


「面白い」「可愛い」「きれい」「巧い」ーーアート作品の形容詞としてはいかにも陳腐な表現だけれど、ローラ・オーエンス(1970年生)の絵画を語るには、普通の言葉がぴったりくる。さらにもう一つ凡庸な表現を加えるとすれば、「すごい!」。その力量、ビジョン、絵画に対する「信頼」が、半端じゃない。
思えば90年代後半、オーエンスが登場した頃のアートシーンといえば、モダンアートの抽象画を巡る「絵画の死」論争が終息し、イラスト風や古典的なヌード像など「新しい具象」が復活していた。風穴を開けたのは、エリザベス・ペイトンやジョン・カリンの人物画だ。が、この二人が独特のスタイルを貫いているとすれば、オーエンスの場合はどんどん変化している。
具象、抽象、デジタルプリント、生成りのキャンバスにドローイング、画面上の2枚の板が刻々と動く、通称「クロック絵画」、刺繍やインパスト(絵の具の盛り)が目立つフォーク調の絵、主題でいえば、室内画や風景画、動物の絵など、とにかく多彩。そんな画家の70点近い野心作が会場を埋めている。
実際、絵画における「タブー」に次々と挑戦してきたオーエンス。美大の名門RISD(ロード・アイランド・スクール・オブ・デザイン)とカルアーツに学び、20代半ばで初個展、弱冠33歳にしてロサンゼルス現代美術館で回顧展を開くなど、早くから注目を集めてきたが、ホールマークのカード風だの、手工芸的な女性のアートだのと、一部には強硬な批判もあった。
例えば、4種の青の広がりにカモメが飛ぶ1997年作の海景。映るはずのない鳥の影がブルーの空に描かれ、ユーモラスながらも、発表当時は誰もがびっくり。カラーフィールドやミニマル絵画への言及は明らかで、この点もまた、芸術を侮辱するものと取られたようだ。が、この1点を見るだけでも、ホイットニー展を訪れる価値がある。見れば見るほど、絵画自体の存在感に圧倒される。それは「空間」であり、「モノ」だということだ。
空間性は、展示自体にも発揮され、5階のメイン会場に設置された4つの小部屋では、過去の画廊展示が再現されている。また、「クロック絵画」や刺繍が施された「アルファベット絵画」の連作は、天井ぎわの壁にずらり登場。さらに、8階の広々としたスペースでは、5点の大パネルが床に直立。パネルの表裏を彩る絵や文字は、離れて全体を眺めると一続きの絵や文章になって見えてくる。まるで襖絵のごとき趣だ。
オーエンス絵画の真骨頂といえば、2000年代のスイートな絵画シリーズだろう。結婚し、二児の母となった彼女は、子供の絵本に題材を求め、童話世界の動物だの、眠るカップルだの、よりパーソナルな絵画世界を展開。芸術性に反旗を翻すかのようなモチーフはしかし、虎や猿の毛並みの描写といい、カラフルなボタンを貼り付けた抽象画といい、楽しさとアイデアに溢れている。
近年の大作では、デジタルプリントの応用やフォトショップのドロップシャドウに想を得た騙し絵的な奥行きに加え、木連格子(木製の実物)がコラージュされるなど、二重三重の画面構成が特徴だ。サイズもでかい。ラディカルで野心的、女性パワー全開のオーエンスのアートは、まさに並外れた才能と自信に溢れている。
高校生の頃、母親がふと「将来はカードのデザインとか、子供たちにアートを教えるのもいいわね」と声をかけると、オーエンスは一瞬涙目で、「私のアートが美術館に並ぶのを想像できないっていうの?」と訴えたという。
こんなエピソードが載っている本展カタログもまた貴重だ。通常の作品評や図版ページはなく、初個展を前にした画家の不安、画廊や美術館との関わり、作家仲間のオーエンス評や制作メモの写しなど、生のドキュメントが満載。しかも、表紙はオーエンスが手がけたシルクスクリーンで、一冊ずつ違っている。おそらく、アート界進出を目指す若いアーティストの誰にとっても必要なビジュアル本。「我が道を行く」のお手本でもある。(藤森愛実)

Laura Owens
■2018年2月4日(日)まで
■会場:Whitney Museum of American Art
 99 Gansevoort St.
■$25、シニア/学生$18、18歳以下無料
www.whitney.org



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