2017年11月3日号 Vol.313

歴史捉え直す重要性
天正遣欧使節団の足跡から
「杉本博司:天国の扉」


Hiroshi Sugimoto (b. 1948), Staircase at Villa Farnese II, Caprarola, 2016. Gelatin silver print. © Hiroshi Sugimoto
courtesy of the Polo Museale del Lazio-Ministry of Cultural Heritage and Italian Tourism.


Unidentified Artist, Scenes of European Ways of Life, Momoyama period, 16th century.
Pair of six-panel folding screens: ink and color on paper. 36.7 x 119.1 in each.
Collection of MOA Museum of Art, Shizuoka. Photo courtesy of MOA Museum of Art.
※2枚の屏風の展示は11月17日まで。後半(11月21日〜2018年1月7日)は「西欧王侯図屏風」(ボストン美術館)と「南蛮渡来図屏風」(ファインバーグ・コレクション)が展示される。


16世紀、ポルトガル、スペイン、イタリアなどを8年以上にわたって旅した日本の少年たちがいた。天正遣欧少年使節団である。ジャパン・ソサエティ・ギャラリーで開催中の「杉本博司:天国の扉」(創立110周年記念展)は、本年度の文化功労者に選ばれた現代美術家・杉本博司が、この天正少年使節団にインスピレーションを得て構成した展覧会だ。
杉本は自分の作品と自分の美術コレクションを並列させる展覧会をこれまで何度か開催してきた。今回、日本と西洋の文化交流に焦点を当て、独創的な現代美術作品と自らの収集品を含む安土桃山期から17世紀にかけての日本美術品で構成したユニークな世界を提示することによって、歴史を捉え直すことの重要性を再度問いかけている。

天正少年使節団は、九州のキリシタン大名の名代としてローマに派遣された4人の少年と随員によって構成され、1582(天正10)年2月に日本を出発した。ポルトガル、スペインを経て、イタリアでピサ、フィレンツェ、ローマ、ヴェネツィア、ミラノなどを訪れ、ローマ法王やトスカーナ大公フランチェスコ1世・デ・メディチ等に謁見する。13〜14歳だった少年たちは、ルネッサンス後期のヨーロッパ世界を体験し、8年半後グーテンベルク印刷機と共に帰国した。
杉本はイタリア、ヴィチェンツァで、欧州最古のオペラ劇場、テアトロ・オリンピコの撮影をしていた時、劇場がオープンした1585年に少年使節団がここを訪れていたことを知り、少年たちの足跡を辿って、彼らが見たものを捉えてみようと考えた。

展覧会入口近くのノース・ギャラリーには、ヴィチェンツァのテアトロ・オリンピコの他に、フィレンツェの有名なドゥオーモ、カプラローラのヴィラ・ファルネーゼ、ローマのパンテオンなど、少年たちが訪れたと思われる建物の外観や内部を撮影した杉本のモノクロームの大型銀塩写真が並んでいる。いずれも現在は観光客で混雑する観光名所だが、夜間や明け方など人気がない時間帯を選んで撮影されており、静寂につつまれた画面は時間を超越した美と厳粛さを漂わせている。
展覧会最後のセクションには、フィレンツェのドゥオーモ付属サン・ジョバンニ洗礼堂の扉の有名な十枚のレリーフパネル「天国の扉」を撮影した作品が展示されている。旧約聖書の物語を浮き彫りにしたこれらのレリーフはロレンツォ・ギベルティが1425〜1452年に製作したもので、少年たちもきっとその出来映えに目を見張ったことだろう。杉本は、当時でも最も完成度が高いこれらのルネッサンス建築を少年たちの目を通じて見せることで、文明の臨界点に立っている21世紀の私たちに、立ち位置確認を迫っているのだ。
一方、この展覧会のもうひとつの見所は16世紀にヨーロッパから入ってきた文化に影響を受けた日本美術品だ。もっとも見応えがあるのはサウス・ギャラリーに展示されている「洋人奏楽図屏風」=写真下=と「南蛮人渡来図屏風」 (いずれもMOA美術館蔵)という個性豊かで美しい南蛮屏風だ(11月17日まで展示)。当時の絵師たちが、大和絵的な技法を使って西欧の風景や西欧人来航の異国的光景を描きだしていて、そのミスマッチがそのまま当時の日本人の心情を表現しており興味深い。
桃山時代は茶が盛んであり、本展には茶道具や茶に関連した人物の書状なども展示されている。千利休の周囲にキリシタン関係者が多かったことはよく知られおり、茶の湯とキリスト教の類似性も指摘されている。しかし、秀吉は次第にキリシタンへの弾圧を強めていき、8年半後の1590年に帰国した少年たちには厳しい環境が待ち受けていた。翌年には秀吉に命じられて利休が自害する。この後、日本は統一を果たすが、他の文明や宗教を排除する方向へと向かっていく。そんな意味でも、天正少年使節団の波乱に満ちた旅は、国境閉鎖が話題となる今に相応しい物語なのかもしれない。(朽木ゆり子)

Hiroshi Sugimoto: Gates of Paradise
■2018年1月7日(日)まで
■会場:Japan Society:333 E. 47th St.
■一般$12、シニア/学生$10
 ※前期/後期共通チケット:
 一般$20、シニア/学生$16
www.japansociety.org



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