2017年10月6日号 Vol.311

ユニークな空間の美
再評価されるアサワのアート
「ルース・アサワ」展


吊り彫刻が並ぶ展示風景 Photo: EPW Studio/Maris Hutchinson © Estate of Ruth Asawa, Courtesy David Zwirner, New York/London


Untitled (S.070, Wall-Mounted Tied Wire, Open-Center, Five-Branched Form Based on Nature), 1988
© Estate of Ruth Asawa, Courtesy David Zwirner, New York/London


イモーゲン・カニングハム撮影によるルース・アサワ(1952年)Photo © 2017 Imogen Cunningham Trust
© Estate of Ruth Asawa, Courtesy David Zwirner, New York/London


ルース・アサワ(19 26〜2013)の細いワイヤによる吊り彫刻は、数年前から急速に注目を集め、ホイットニー美術館の新館オープン記念展ではかなり大きな扱いで展示されていた。この夏MoMAで開催された、女性作家と戦後の抽象に絞ったコレクション展においても、アグネス・マーティンやリジア・クラークら有名作家と肩を並べ、アサワのアートの再評価は着々と進んでいる。
何よりのお墨付きは、チェルシーのメガ画廊デイヴィッド・ツヴァーナーが、アサワの遺作を扱うようになったことだろう。この画廊は、若手作家の新作展はもとより、ベテランや物故作家のヒストリカルな展示に力を入れている。新シーズンのトップを切って登場したアサワの展示もまた、彫刻やドローイング、珍しい写真資料を揃えた美術館レベルの展覧会だ。
中でも、吊り彫刻が何本も軽やかに舞うスペースは、あっと息をのむほどの美しさ。これほど種類があったとは。針金を編み込んだ、ぼんぼりのような、瓢箪のような曲線の形。近づけば細かなチェーンの繰り返しで、継ぎ目はどこにも見当たらない。二重三重に編み込まれたモチーフは、ふと生命体や細胞を思わせもする。が、レースのごとき透明さと、重なり合いの濃淡の妙が、まさに抽象の美を紡いでいる。
アサワは、福島からの移民の両親のもと、カリフォルニアの田舎に生まれ育った。戦時中、アーカンソー州の日系人強制収容所に送られ、ここで、ウォルト・ディズニーのスタジオで働いていた日本人アーティストと出会い、絵を描くことの楽しさを覚えたという。幸い、地元の宗教団体の厚意で米中西部の教員養成大学に進学するが、実習経験を積むことができずに退学する。すでに終戦を迎えていたとはいえ、日系人を実習生として受け入れる学校は、どこにもなかったのだ。
この辛苦は、逆に転機となった。メキシコに渡り、伝統文化の一つである籠編みに目覚める。同時に、当時の仲間の勧めで、ノース・カロライナ州のブラック・マウンテン大学でアートを学ぶことを決意する。この大学は、今でいう学際的な学校で、アートやデザインなど芸術を通じて教育制度そのものを見直す進歩的な気風に溢れていた。ジョン・ケージやマース・カニングハム、建築のバックミンスター・フラーら、錚々たる面々が教授を務め、アートの分野を仕切っていたのは、ドイツのバウハウスに学んだ画家ヨゼフ・アルバースだった。
このアルバースや、妻のアンニ・アルバース、同窓生のレイ・ジョンソン、そしてアサワの4人による、ドローイングを主体にした展覧会が、ツヴァーナー画廊のアップタウンのスペースで同時開催されている。この秋オープンしたばかりの、瀟洒なタウンハウスのワンフロアだ。展示は小規模だが、自然や日常のモチーフに想を得た4人それぞれのアートの関連性が見てとれる。とりわけ、芋版を使ったアサワのドローイングには、濃淡の重なり合いや左右対称のイメージなど、ワイヤ彫刻のオリジンが詰まっているようだ。
作家は生前、トンボの薄い羽やきらめく陽光に目をみはった子供時代の思い出を語っている。細かな鎖の彫刻は、まさにトンボの羽にある透明感や、かっちりとした精緻な網の目を写し取っているようだ。壁にソフトな影を描く、そのシルエットも美しい。アサワのユニークな彫刻作品はしかし、学生時代から注目を集めながらも、ニューヨークの画廊で発表されるや、「女性的な手仕事」「家庭的なアート」だと一蹴されてしまう。
ここ数年の再評価は、作家が亡くなる直前にオークション会社のクリスティーズが開催した回顧展の力も大きいだろう。サンフランシスコを拠点に制作を続け、建築家の夫アルバート・ラニアとともにパブリックアートの仕事でも活躍した。また、生涯、アート教育に情熱を注いだアサワ。晩年、くだんの教員養成大学(現ウィスコンシン大学)から、名誉博士号を授与されることになった際には、「博士号より、まずは卒業証書を」と申し出たという。生き様も作品も、骨のある作家の待望のカムバックだ。(藤森愛実)

Ruth Asawa
■10月21日(土)まで
■会場:David Zwirner Gallery:537 W. 20th St.


Josef and Anni and Ruth and Jay
■10月28日(土)まで
■会場:David Zwirner Gallery:34 E. 69th St.
www.davidzwirner.com


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