2017年09月22日号 Vol.310

「いま世界と日本が直面するリスクとは?」(1)
情緒を捨て、大局を見る
国際ジャーナリスト 内田 忠男


9月6日午後7時からJAAホールで、国際ジャーナリストとして第一線で活躍し、現在は名古屋外国語大学・大学院教授の内田忠男(うちだ・ただお)氏による講演会が開催された。雨模様の中、歯切れよい内田氏の話を聴こうと、およそ80人が来場した。▽主催:マイ・イベントUSA ▽協賛:サッポロビール、北米伊藤園、よみタイム ▽後援:NY日系ライオンズクラブ ▽協力:IACEトラベル


近頃の世相を見ていると、政治も経済も社会も、すべてスッキリしない、見通しが立たない、まさに不透明・不確実の時代である。そこで、私たちが今、直面する様々なリスクについて話をしたい。

「地球温暖化」に
待ったナシ!


まず、気候変動に伴う地球温暖化の問題、これはもう待ったナシの状況に来ている。
つい最近も、 ハリケーン「ハービー」がテキサス州ヒューストン一帯を襲い大きな被害が出た。日本でも、ゲリラ豪雨という局地的な集中豪雨が九州を襲った。最近は、線状降水帯という線状の地域に豪雨が長時間降り続く現象が増えている。こうした異常気象に遭っては、並の治山治水対策では間に合わない。山ごと崩れるような大規模な土砂崩れが起き、鉄砲水という言葉がピッタリの猛烈な勢いと水量で、河川が大小問わず氾濫し、一帯を水浸しにする。
熱帯で発生する大型の低気圧(発生場所により、台風やハリケーン、サイクロンと名称が変わる)が、強力なものになって被害を大きくしている。また本来、南太平洋で発生する台風が、近年は日本近海でも発生するようになった。
何故こんなことが起きるかと言うと、海水温が異常に高いためで、これは正に温暖化の結果だ。豪雨や高潮などに伴う洪水や山崩れ、土石流、さらには竜巻から異常高温、山火事、旱魃(かんばつ)など、様々な気候変動に伴う災害で多くの人命が失われ、多大な経済的損失も蒙っている…。
私は、国際ジャーナリストという商売柄、各国のニュースを毎朝チェックしているが、どこの国でも、気象災害を伝えるニュースを、必ずと言って良いほどやっている。私の世代は、「シベリアの永久凍土は、未来永劫に融けることのない、地表が凍り付いた地域」と教えられた。ところが、シベリアだけではなく、カナダ北部やアメリカのアラスカ州でも、その永久凍土が融け出している。化石でしか知らなかったマンモスが全身凍結した状態で見つかった、などというニュースも伝えられるようになった。地球全体の地層に含まれる炭素の3分の1は、凍土地帯に埋まっていると言われるが、融け出した凍土からは、太古の生き物を起源とするメタンガスが大量に放出されている。メタンというのは二酸化炭素の21から72倍もの温室効果があるとされており、気候変動と温暖化をさらに加速し、地球全体の生態系に悪い影響をもたらすはずだ。
ヒマラヤやヨーロッパ・アルプスの氷河も音を立てて融け出している。グリーンランドや南極大陸の氷床・氷冠、北極海の氷山も融けている。融け出した氷河・氷山・氷床・氷冠の水がどこに行くかと言えば、海しかない。海水面の上昇で、海抜以下の陸地が浸水し、小さな島国では領土自体が失われている。
地球温暖化が、人類の営みの結果であり、産業革命以来、石炭や石油などの化石燃料を大量に燃やし続けて来た結果だ、という点は、もはや世界の常識だ。それならば、二酸化炭素をできるだけ出さないようにしよう、低炭素社会を実現しよう、というのが国際社会共通の課題になった。
ところが、その常識に公然と異を唱える政治家が出現、アメリカのドナルド・トランプ大統領である。「化石燃料で温暖化が起きているというのは、でっちあげのデタラメだ!」と言い放った。去年の大統領選挙でも繰返し言っていたが、それより前、2012年11月のツイッターでは、こんなことも書いていた=「The concept of global warming was created by and for the Chinese in order to make U.S. manufacturing non-competitive.」(気候変動のコンセプトは米国の製造業の競争力を衰えさせるため、中国人が作り上げたものだ)
そして、今年6月1日、「温室効果ガス削減のために全ての国が協力しよう」というパリ協定から離脱すると宣言した。
現在、温室効果ガスを一番多く吐き出しているのは中国で、二番目がアメリカ。中国が一番になるまで、長い間、ダントツだったのはアメリカだ。温暖化の元凶ともいえる国が、国際社会共通の行動に背を向けたのである。

日本の課題と
原発問題

しかし、この問題については、日本も大きな顔は出来ない。
国連の気候変動枠組条約には、国連全加盟国193を超える197の国・地域が入っており、締約国の総会ともいえるCOPが、毎年持ち回りで開催されている。その3回目となったCOP3が1997年、京都で開かれ、温暖化ガスを放出し続けて来た先進工業国に放出量の削減義務を負わせる「京都議定書」を採択した。2008年から12年までの5年間を実行期間とし、1990年の排出レベルより削減する義務を国別に課した。日本に与えられた義務は6%で、7%を課せられたアメリカはこの時も途中で離脱したが、日本は比較的優等生で、真面目に義務を果たそうとしていた。
1990年の排出量は実数値で 12億6100万トン。6%減らすには11億8500万トン以下にする必要があり、2008年から10年までは順調に進めていた。ところが11年3月11日、東日本大震災により、 二酸化炭素を全く出さない原子力発電所が全て止まってしまった。原発を止めても電力の安定供給をやめる訳にはいかず、各電力会社は、止めていた火力発電所まで再稼働し、化石燃料を盛大に燃やすことになった。
実行期間が終わった後、2013年の排出量は、実数値で13億9500万トン。1990年レベルより減らすどころか1億3千万トン以上増えてしまった。環境省はこの実数値から森林などの吸収効果を差引いて12億5300万トンという数値を出しているが、それでも90年レベルからの削減量は 800万トンに過ぎない。結果的には、京都議定書が決めた削減義務には遠く及ばなかったのである。
原発を再稼働させることは、周辺住民の感情を考えると、決して易しいことではない。しかし、「地球全体の温暖化防止」という大局観に立てば、むしろ積極的に使わざるを得ないというのが私の現実論的な考えである。そもそも、「100%安全」などというものは、あり得ない。自動車にしても、命の危険は原発よりも高い。だからと言って、自動車をやめますか?
私は、日本人全体が、政治家やマスメディアも含め、「情緒を捨てて大局を見て欲しい」と日頃から訴えている。原発を将来的になくすのは成り行きとして賛成だが、当面の問題としては安全性確保に全力を注いだ上で、稼働させざるを得ないと考えている。

国際テロの脅威
遅れる対策


私たちが直面するリスクは気候変動だけでは無論ない。
聖戦(ジハード)を叫ぶイスラム過激派の国際テロリスト・グループによる攻撃が、世界中至る所で日常的と言える頻度で起きている。その多くは自爆攻撃… 自らの命を捨てて仕掛けてくる攻撃は一番防ぎにくい。そもそもテロリストというのは、制服を着ている訳ではないため、事前に特定出来ない。その上、所構わず出現するため、場所の予測も不可能だ。犯行に使われる凶器も、爆発物や銃器だけでなくなっている。最近は、自動車を暴走させ、人々を跳ね飛ばすという犯行が増えており、刃物を使うケースもある。爆発物だけであれば、材料の入手や製造段階でアジトを特定するなど、ある程度 防ぐ手立てがあるけれども、クルマや刃物では予見が出来ない。 しかも、不特定多数を狙う犯行は、一般街路なのか、空港なのか、駅なのか、公共交通機関なのか、スポーツやコンサート会場なのか、ショッピングモールなのか、レストランなのか…など、場所の予測が出来ないため、防備しにくい。
いまや、日本においてさえ、いつ犯行が起きても不思議ではない状況だ。それなのに、今年の通常国会で成立した「テロ等準備罪法案」について、野党はこれを「共謀罪法案」だと執拗に主張。その国会審議を見ていて、日本の政治の貧困さに、つくづくやるせない気持になった。
どんな人間がテロリストになるかを予見出来ない状況で、一般人が捜査の対象にならないなどと、初めから決められるはずがないではないか。それなのに野党は、ほぼその一点に絞って政府提出の法案を追及。与党は与党で、「一般人は捜査対象になりません」と断言する。一般人とそうでない人物をどう区別するというのだ?
今、起きている事件を見ても、テロリストが初めからどこかの組織の構成員だと名乗っているケースは極めて少ない。ごく普通の市民に見えていた人間が、ある日突然、凶悪なテロ攻撃を仕掛けている。危機がここまで迫っているというのに、国会審議は何とも能天気としか、言いようがなかった。
この審議で、答弁の矢面に立った金田勝年という法務大臣は、問題の本質がどこにあるか心得ていない。大蔵省主計官という前歴がウソではないかと思える頼りなさだった。
無論、ダメな政治家はこの人に限らない。
安倍総理に特に目をかけられた稲田朋美防衛大臣、正にその任にあらずと断定出来る基礎知識と資質の欠落を露呈したのに、辞めるのが遅すぎた。
少し前に、東日本大震災が首都圏でなく東北で良かった、と発言してクビになった今村雅弘復興大臣。これも失礼ながら、東大法学部から JR九州という経歴が「ホンマかいな?」と疑わざるを得なかった。
クルマを運転している秘書に向かって、「このハゲー!」と、絶叫した豊田真由子という女性議員に至ってはもう論外で、何故、議員を辞職しないのか…。
こういう議員たちが寄ってたかって、安倍政権と自民党の支持率を押し下げた。
野党にもロクな人材はいない。野党第一党の代表になった蓮舫は、一番の基本である自らの国籍についてウソを通して来た。
こういう国会議員たちを、私たち日本人は、私たちの税金で養っている……イヤになりませんか?
(次号へつづく)

17年9月6日に行われた講演会原稿より(編集部)



HOME