2017年09月08日号 Vol.309

15年後、家に戻ったノラ
地位失墜の夫、恨み吐露する娘
「人形の家 パート2」


Julie White. All photos by Julieta Cervantes


(l to r) Erin Wilhelmi, Stephen McKinley Henderson, Julie White, and Jayne Houdyshell


ブロードウェイでヘンリック・イプセンの「人形の家」の続編が上演されると聞いたとき、よくそんな大胆なことをする作家がいたなぁ、と正直ビックリしました。近代演劇の父と称され、ノルウェーでは国の象徴にもなっているイプセンの代表作。その続編に手をつけるなど、良かれ悪しかれ世界中の学者や演劇関係者の批判に晒されることが目に見えている。そんな俎上に自らのぼっていくなんて、よっぽどの野心家なんだろうと思って、作家のルーカス・ナイスの写真を見て納得。白人、ロン毛、30代のイケメンでした。しかも母親は大臣経験者。オーランドに生まれ育ち、医学部を志してNYに上京したものの、母の影響で始めた演劇を捨てられず、その道に進んだ根拠ある自信の持ち主だったのです。
実はこのやり方、正攻法です。トム・ストッパードは「ハムレット」を別角度から描いた処女作「ローゼンクランツとギルデスターンは死んだ」の成功で劇作家の確固たる地位を築きました。
今回の「人形の家」の続編、オリジナルを観ていなくてもわかるように書かれていますが、伏線になっているセリフも多く、知っているほうが20倍面白いのでここでおさらいしましょう。

主人公のノラは銀行頭取に出世した夫に愛され、3人の子供にも恵まれた無邪気な妻。そこへ夫からクビを言い渡された部下のクロクスタが撤回を求めてノラを訪ねてきます。夫が病気になったとき、療養費のため、ノラが父親のサインを真似、彼から金を借りた過去があり、それをバラされたくなかったらクビを撤回させろ、とゆすってきたのです。
ノラは帰宅した夫にさり気なく頼みますが、夫は聞く耳を持ちません、クロクスタは書類の日付を改ざんしたのだ、と。解雇された彼から送られてきた手紙で、ノラの過去を知った夫は激怒しノラを罵倒。しかし、そこへ改心したクロクスタからノラの借用書が送られてくるのです。平穏を取り戻した夫ですが、ノラの気持ちは変わりません。ノラは夫と子供を捨て、体ひとつで家を出て行くのです。
この脚本が書かれた1879年当時、世の中は男社会。女性は参政権すらありませんでした。女性の自立を描いたとして「人形の家」は、戯作以上の扱いを受けました。

ノラの出奔から15年。同じヘルメルの家に、ノラが突然帰って来るところから今回の続編は始まります。
登場人物はわずか4人。ノラと夫、乳母のアン・マリー。そして3人いた子供のうち、娘のエミーだけ。ノラはアンチ結婚を掲げ、ベストセラー作家になっています。突然の来訪の目的は、もちろん夫との正式な離婚です。
夫は、相変わらず銀行の経営に没頭。印象的なのは、15年ぶりに帰ってきた妻の顔を見ても、何事もなかったようにごく静かな対応をすることです。これだけで、妻に捨てられ、男中心の社会でいかに地位が失墜してしまったかがわかります。
いっぽう、娘のエミーはドレスを美しく着こなす上品なレディに成長しています。このエミーが、夫に代わって、この15年間の恨みつらみを、丁寧な言葉で、スカートの裾ひとつ乱すことなく、淡々と感情を抑えた口調で、自分勝手な母親にぶつけていくのです。
母親として、妻としての義務放棄を突き付けられたノラはどんな行動に出るのか――。
自由恋愛、結婚、伝統的な男女の役割と女性の権利など、大きな社会問題を次々と提起して、あっという間に90分の幕は閉じていきます。
本場ブロードウェイで成功したからには、本国ノルウェーでの上演も時間の問題でしょう。そのとき、どんな態度でナイスは対応するのか…今から期待が高まります。(佐藤博之)

A Doll's House, Part 2
■2018年1月7日(日)まで
■会場:John Golden Theatre
 252 W. 45th St.
■$39〜
■上演時間1時間30分
■dollshousepart2.com


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