2017年07月07日号 Vol.305

「オスロ合意」の知られざる裏側
平和を願ったラーセン夫妻
トニー賞演劇作品賞「オスロ」


Anthony Azizi, Dariush Kashani, Jennifer Ehle, Michael Aronov and Daniel Oreskes. photos by T. Charles Erickson


Jennifer Ehle as Mona Juul and Jefferson Mays as Terje Rød-Larsen


今年のトニー賞演劇作品賞に輝いたのは「オスロ」でした。今年はピューリッツアー賞が「スウェット」だったため、トニー賞も「右へならえ」するかなと思っていましたが、結果は違っていました。

「オスロ」が扱っているのは、93年にイスラエルとパレスチナが、いかに和平合意に至ったかという裏話、政治ネタです。政治の話はエンターテインメント性を求められるブロードウェイ作品で扱うのが難しい題材。セントラル・パークで無料上演していた「ジュリアス・シーザー」は、トランプ大統領を彷彿させる演出と、最後に暗殺されるストーリーが「極めて不適切である」と、大口スポンサーが降板する事態に発展。政治を風刺する場合、このような実害に見舞われる可能性もあるのです。
しかし「オスロ」はそんな機をてらった話題づくりで政治を扱ってはいません。しかも、この歴史的「オスロ合意」の立役者となったのが、一見、中東和平とはまったく関係なさそうな、ノルウェーの大学教授夫妻だったという真実が、観る者をハッとさせてくれます。

物語は和平前年の92年、イスラエルの隣国・エジプトのカイロから始まります。カイロに在住するノルウェー人で社会学のラーセン教授。仕事上、イスラエルやPLOに知り合いが多く、ある日、社会学の観点から平和を見い出すアプローチとして、イスラエルとパレスチナ双方が直接話し合うことが出来ないかと思いつきます。彼は、イスラエルの2人の大学教授とPLOの2人の役人に的を絞り、顔合わせを画策します。これがどうして大問題なのかというと、当時は両国とも相手国と連絡を取っただけで逮捕され、特にパレスチナでは死刑と決まっていたからです。
そもそも、ユダヤ教を信仰するユダヤ人が多く住むイスラエルと、第一次世界大戦以前から住んでいたイスラム教を信じる多くのアラブ民族が住むパレスチナとでは、イデオロギーが異なります。相容れる要素がない者同士が対立すれば、もう戦争するしかありません。そこへ同じ文明人なのだから、と話し合いの席に着くよう持ち掛けたラーセン教授がすごい。これは平和以外の思惑がない民間人だからこそ、できたことかもしれません。
ラーセン夫妻の奮闘の下、会合は極秘裏に始まります。緊張を強いられる話し合いが2度、3度と重なるなか、両者は深刻すぎる雰囲気に疲れて果て、ジョークを口にするまで心を打ち解け合い始めます。間で右往左往するラーセン教授をかつぐためだけに「芝居」をするドッキリシーンまであって、観る者の緊張感をほぐすところは、展開がうまい。こんな人間らしい事実があったのか、と思わせてしまうこと自体、脚本がうまく書かれているという証拠です。
このPLOの役人のひとりが、後にパレスチナ自治政府の首相となるアフマド・クレイ氏だったことも、事態を大きく動かします。
物語には描かれていませんが、世界をあっと言わせた劇的な和平締結から、わずか2年後の95年、イスラエルのラビン首相の暗殺で和平は水泡に帰します。
幕切れでラーセン教授は、客席の通路に降りて来て、こう言い放ちます。
「2つのグループの会話を始めるという、あり得ないことを可能にしたこの工程から、何かを学びたい」
途中で投げ出すことは誰にでもできます。どんな形でさえ、作り上げるということは、その過程も含め、一朝一夕には成り立ちません。結果がどうあろうと、努力した成果は、その人の自信につながります。そして、その人が努力している姿を、陰ながら見ている人も必ずいるのです。
それは、この「オスロ」という芝居の成り立ち自体も実証していること。オフの小さな劇場から始まり、オンに上がる過程で3幕ものから2幕に。上演時間も3時間を切るよう制約を受け、みごと開幕してからは、多くの下馬評を押し退け、演劇界の頂点・トニー賞作品賞までたどり着いたこのサクセス・ストーリーこそ、良い作品を創ることだけに邁進し続ければ夢はかなうということを我々に示してくれています。
トニー賞を受賞したことで、7月16日まで延長が決定。今年の代表作、見逃せません!(佐藤博之)

OSLO
■7月16日(日)まで
■会場:Vivian Beaumont Theater
 150 W. 65th St.
■$87〜$147
■上演時間2時間55分
osloonbroadway.com



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