2016年06月24日号 Vol.280

タンゴ、フラメンコ、ジャズ
音楽性の幅広さとテクニック
ピアニスト/作曲家 ダリオ・ボエンテ


音楽と言語は類似している。使う楽器と単語、そして、奏でるサウンドと発する声のトーンは演奏者、話し手によって大きく変わる。早口に流暢に、ゆっくりとゆったりと、優しく辛辣に。

アルゼンチン生まれのピアニスト兼作曲家のダリオ・ボエンテ。彼は、母がタンゴ歌手だったことも手伝って、アルゼンチン・タンゴが好きになり、ピアノへの願望も5歳で芽生えたが、両親はなかなか真剣に受け止めてくれなかった。しかし、13歳でスペインに移住し、本場スペインで聴いたフラメンコがダリオの音楽への情熱を更に掻き立て、ついに14歳でピアノを始める。そして、その2ヵ月後にはロックファンでシンガーの兄とライブ演奏を初体験。クラシックも学び始める。
18歳になると米国へ移住。ボストンのバークリー音楽院で2年間、その後はロンドンのギルドホール音楽演劇学校でジャズとクラシックを専攻し、更に1999年には再びアメリカへ戻り、ニューヨークのニュースクールで、音楽を学んだ。それ以来、彼の肩書きは「ニューヨーカー」だ。
「ニューヨークはインスピレーションの中心だよ。文化の違うトップクラスのミュージシャンが世界中から集まってくる。最高の学校だね」と、音楽への追求心が果てないダリオ。

ダリオ・ボエンテは、ジャズという土俵でピアノを弾く一方で、ダンス・クラブでは、ワールドミュージックのエッセンスを取り入れたエレクトロニカが演奏できる柔軟性と音楽性の幅の広さを兼ね備えている。キーボードやラップトップ・コンピューターを前に自由自在に操り、ダンス・ビートを打ち出すその姿は、正にクラブDJそのものだ。
「最新テクノロジーを知ることは、現代のジャズミュージシャンの責任のひとつだと思う。さもないとジャズは、今を生きるアートフォームではなく、博物館に展示される過去の産物となってしまうだろう」

ダリオ・ボエンテは対峙する二極を持つ音楽の「ヤジロベー」とも言える。そこで鍵となるのがテクニックだ。しかし、テクニックとは、一般的に思われがちな正確性や技巧性ではない。
「たくさんの音を速く正確に弾くことがテクニックじゃない。例えば、バラードやスローなメロディーを、美しいサウンドで奏でることは、時に非常に高度な技術が必要とされ、速く弾くことより難しいことがある。それも音楽においてはとても大切な『テクニック』だ」
ジャンルやスタイルが異なっても相手に何かを伝えることはとても難しい。例えば、言語が話せても的確な表現ができるかは別問題だ。
「どれだけ沢山のボキャブラリーがあっても、興味深い話ができるかどうかは別問題だろう。短い文章が、念入りに書き上げられた文章より、パワフルでオーディエンスによりダイレクトに訴えることもある。クラシックやジャズは、ダンス音楽に比べれば(演奏面の技術性においては)複雑かもしれないが、かといって後者が簡単とは言えない」と、テクニックの多様性を指摘する。
そういう意味も含め、人間として成長を続け、オリジナル音楽やサウンドを追求していくことが、ダリオにとっての一つの大きなゴールでもある。
「ジャンルは関係なく、自分にフィットするものならなんでもウェルカムさ」
今後もどん欲に新しいものを吸収していく姿勢を見せる。

そのダリオが、昨年10月のイリディアム以来となるリーダーバンドのライブをマンハッタンで行う。今回はミンガス・ビッグバンドでローダーとしても活躍するロシアのボリス・コゾロフ、ブラジル出身の技巧派ドラマー、マウリシオ・ゾタレリという長年のミュージシャン仲間たちとのトリオ編成で、タンゴ、フラメンコ、ジャズなど、最新アルバム「ライムライト」からのナンバーを中心に披露する。

健康管理の秘訣は「シティバイクに乗ること」と言うベジタリアン。心身ともに絶好調で、今の人生に不足しているものは「銀行口座にあるべき200万ドル」と笑うダリオ・ボエンテ。これまでかき集めてきた音のボキャブラリーで、ダリオが独自の音楽観を雄弁に語る。(河野洋)

Dario Boente & Company
■6月26日(日)7:30pm
■会場:Club Bonafide
 212 E. 52nd St.
 Tel: 646-918-6189
■$15
clubbonafide.com



河野洋: 名古屋市生まれ。12歳でロックに目覚め、ギター、バンド活動を始める。89年米国横断、欧州縦断のひとり旅の後、92年NYに移住。03年ソロアルバムのリリースと同時にレコード会社、Mar Creation, Inc.を設立。現在は会社では、アーティストマネジメント、PR、音楽、映像制作などエンターテイメントに関連するサービスを提供するかたわら、「NY Japan CineFest」「j-Summit New York」などのイベントをプロデュース。その他にも、エイズ、3.11震災後の日本復興に関わるチャリティイベントや、平和、社会、環境問題などをテーマにしたプロジェクトにも積極的に取組んでいる。 ウェブサイト : www.marcreation.com / メール: contact@marcreation.com
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